結婚、出産、離婚、再婚……それでも聖子は

そして人気もピークの1985年1月、交際をオープンにしていた郷ひろみとの破局会見を開くも、映画『カリブ・愛のシンフォニー』(1985年4月公開)で共演した神田正輝との婚約を4月に発表、6月24日に結婚する(1997年離婚)。ふたりの結婚は互いの名前から「聖輝の結婚」と呼ばれ、連日マスコミを賑わせた。

その後、妊娠出産のため、この年の「NHK紅白歌合戦」出場を最後に、聖子は芸能活動を休業する。

松田聖子結婚記念写真集『愛・聖子』(1985年/集英社)。当時の芸能誌「週刊明星」によるフォト・シリーズ
松田聖子結婚記念写真集『愛・聖子』(1985年/集英社)。当時の芸能誌「週刊明星」によるフォト・シリーズ

超人気アイドルが23歳で結婚し、翌年に長女(神田沙也加さん)を出産……ママタレたちがこぞって活躍する今となってはちっとも珍しくないかもしれないが、当時の感覚としては、アイドルとはまさに“偶像”であって、その人気を維持するためには、恋愛、結婚、出産といった、一般人の人生の営みとは異なる道を歩むものであった。少なくとも表向きは。

だから、松田聖子は松田聖子として活動するときは、あたかもコスプレするように“アイドル”を演じた。しかし、聖子はそれだけでは満足せずに「人間・松田聖子」でもあろうとしたのである。

当時の本名の“神田法子”名義で著した自叙伝『聖子』(1986年/小学館)
当時の本名の“神田法子”名義で著した自叙伝『聖子』(1986年/小学館)

 今回の日本武道館を埋めた中高年女性たちは、少女時代から松田聖子とともに成長し、恋愛、結婚、出産、もしかしたら離婚までも、自分たちのロールモデルとして松田聖子を見つめてきたのではないかと思う。

聖子のステージに熱く盛り上がる聖子と同世代の女性ファンの眼差しには、並々ならぬ思い入れがこもっていると感じたのは、筆者の思い違いではないはずだ。
実際、聖子のコンサートチケットは抽選制だが、その競争率は常に高い。年末の恒例ディナーショーも言わずもがな。5万円超えの高額もなんのそのだ。