社会人になりアルコールにも依存

当時は、睡眠のために軽いODを繰り返す程度で、薬物依存には陥っていなかったという麗さん。しかし、社会人になってから状況が一変する。就職した施工管理会社での激務によりさらにストレスが溜まり、アルコールにものめり込むように。

「とにかく人がいない職場で、日中は現場監督を任され、夕方以降は事務作業や会計作業をこなし、週6日、7時~22時ごろまで働いていました。高校は田舎の工業高校に通っていたのですが、上京したいがゆえに都内の求人に応募したら、全然待遇がよくなかったんです。

それで仕事のストレスやプレッシャーから、また不眠を発症するんです。仕事で怒られたり、現場でミスして何千万円もの損失を出したりする夢を見るようになり、それならいっそ記憶を飛ばして眠れるようにと、アルコールにも手を出すようになっていきました。

最初は寝るために飲んでいたので、長時間ダラダラと飲む感じではなかったんです。お風呂に入る前に、700mlのウイスキーの角瓶を冷凍庫に冷やしておいて、風呂上がりに冷えた状態でキュっと流し込んで、いい感じに酔ってきたら寝るみたいな」

ただ、日に日に物足りなくなっていったのか、次第にお酒の量は増えていき、毎日ウイスキーの角瓶を半分ほど飲むようになる。

さらに、一人暮らしが寂しかったこともあり、話し相手を求めて、飲み屋で朝を迎える日も増えていった。平日は睡眠不足が続き、週1回の貴重な休みの前日は、睡眠時間を取り返すように寝る前にODして、休日に丸1日寝るような不規則な生活が続いた。

職場には再三、辞職の申し出をしたものの、人手不足から要望が通ることはなく、心身ともに麗さんはすり減っていった。

かき集められた空の包装シートが、ODの深刻さを物語っている
かき集められた空の包装シートが、ODの深刻さを物語っている

家庭用洗剤を飲んで自殺未遂

就職して4年目のゴールデンウィーク最終日、連休中に三日三晩お酒を飲み続けていた麗さんは、酔った勢いで職場に辞意の電話をかける。

「もうそのときは、一言『辞めます!』っていって、そのまま一方的に電話を切りました。ほぼバックれたようなものですね。その後は当然、職場や親から散々電話がかかってきましたが、怖かったのでひたすら無視し続けていました」

当時の麗さん
当時の麗さん

ただ、困ったのは、自宅に帰れないことだった。職場には自宅が知られており、事情を察した親が自宅に来ているかもしれないと思うと、家に帰宅することはできなかった。そこで知り合いの家に居候して、日中はひたすらお酒を飲み続ける生活を送った。

自分の将来はどうなるのか、親との関係はどうすればいいのか……。正気に戻ると不安に押し潰されそうになるため、麗さんはひたすらODとアルコールで現実逃避を続けた。ただ、次第に自暴自棄な生活も身体がつらくなり、麗さんは自殺未遂をしてしまう。

「酩酊していた夜遅く、風呂場で家庭用洗剤を飲み込みました。そのときは処方薬も切れてましたし、もう人生どうでもいいやと、衝動的に飲み込んだんだと思います」

それから2日後、麗さんは集中治療室(ICU)で意識を取り戻す。幸いなことに、同居人が泡を吹いて倒れている麗さんを見つけ、一命を取り留めたのだ。

「風呂場でいつの間にか意識を失い、記憶が戻ったのは数日後の病室でした。胃洗浄で?吐きすぎで食道が荒れ、気分は最悪でした。もう職場は辞めたことになり、家も家族に解約されていて、退院したら地元に戻るのだろうと思っていました」