告発文書に記された不可解な人事

一方、県庁でも異変が起きている。

「牛タン倶楽部はほぼ解体状態です。片山安孝副知事は7月末に辞任すると発表し、ほかのメンバーの理事や総務部長、産業労働部長の中には正常に出勤をしていない人もいます。一人はふさぎ込んでいて周囲が心配するほど。

片山副知事は辞任発表時に、斎藤知事にも辞職を5回勧めたが拒否されたと話しましたが、ほかの幹部の中にも知事に退陣を求めた人がいるとの情報があり、もう支えられないとの空気が出ています」(別の県関係者)

辞任発表時に号泣する片山副知事
辞任発表時に号泣する片山副知事

さらに、これよりも深刻な事態も起きていると別の関係者は話す。自死した2人のうちの1人、元西播磨県民局長、Aさん(60)は3月に斎藤知事らの違法行為疑惑についての告発文書を書いた。このAさんに県当局が懲戒処分で報復する過程で、Aさんへの情報提供を疑われた複数の職員が調査を受けている(♯3)。

「その対象になった人の中にも心身の健康を崩した人がおり、友人らが心配しています。今回の問題では亡くなった2人以外にも深刻な被害から立ち直れていない人もいるのです」(関係者)

また、告発文書を書いたAさんは3月末に定年退職を予定していたが、メディアや警察、県関係者に告発文書を発送したのは3月12日のことだ。

目前となった定年まで待たなかったAさんの心情は、文書に挙げた7つの疑惑で「五百旗頭真(いおきべ・まこと)先生ご逝去に至る経緯」との項目を最初に置いたことからうかがえる。

神戸大名誉教授で外交史研究者の五百旗頭氏は、防衛大校長を務め歴代首相の知恵袋的存在だった碩学だ。兵庫県出身で、井戸敏三前知事との縁から、阪神・淡路大震災後、県のシンクタンク「ひょうご震災記念21世紀研究機構」の理事長に就き、災害からの「創造的復興」という考えを提唱してきた。

その五百旗頭は今年3月6日に研究機構で執務中に「急性大動脈解離」で倒れ急逝している。

神戸大で行われた五百旗頭真氏を偲ぶ会
神戸大で行われた五百旗頭真氏を偲ぶ会

研究機構の副理事長には政治学者の御厨(みくりや)貴・東京大名誉教授や防災研究の権威、河田惠昭・京都大名誉教授という重鎮が名を連ねていたが、斎藤県政は御厨、河田両氏を職から外すこと決め、五百旗頭氏が死去する6日前に片山副知事が五百旗頭氏に通告に行っている。

A氏の告発文書ではこれを以下のように厳しく批判している。

「来年1月は阪神淡路大震災から30年の区切りの時を迎えます。機構の役割・使命を果たす事実上最後の大きな契機であると言っても過言ではないと思います。

御厨、河田の両先生はまさにこの分野における第1人者であり、井戸前知事が要請し、兵庫県政に関わってこられました。五百旗頭理事長もお二人には全幅の信頼を寄せておられているにも関わらず、このタイミングでの副理事長解任はハッキリ言って、五百旗頭先生と井戸前知事に対する嫌がらせ以外の何ものでもありません」

そして、この人事の背景として「とにかく斎藤氏は井戸嫌い、年長者嫌い、文化芸術系嫌いで有名です」と記し、「斎藤知事、その命を受けた片山副知事が何の配慮もなく行った五百旗頭先生への仕打ちが日本学術界の至宝である先生の命を縮めたことは明白です」と結んでいる。