藤野の生き様が、表現者たちの共感を呼ぶ

――本作について、押山監督は「漫画を読んだ時に物語に感情移入できた」と語っています。河合さんも俳優として作品にシンパシーを感じる部分はありましたか?

私は18歳でお芝居を始めたのですが、当初は年齢にコンプレックスを持っていました。例えば子役出身の俳優さんだと、同じ年でも十数年の時間を演技にささげている。

ちょうど京本の家を訪れた藤野が、山のように積み重なったスケッチブックを目にしたときのように、「子役からやってきた人に私がかなうわけない」という気持ちになったこともあります。

でも、私は演技の経験が少ない分、“普通の子供の経験”を持っていますし、それが演技に生きることがあるかもしれない。そう自分を奮い立たせた過去は、藤野と通ずるところがあるかもしれません。

河合優実「フィクションなんて作っている場合なんだろうか」と葛藤…劇場アニメ『ルックバック』とシンクロする感情とは_4

――京本とふたりで作品を作り上げ、高校卒業後、漫画家としてのキャリアをスタートさせる藤野。しかしすべてが順調にいくわけではありません。

藤本タツキさんも「自分の中にある消化できなかったものを、無理やり消化する為にできた作品です」とおっしゃっていましたが、今、現実で痛ましい出来事がたくさん起こっていますよね。

まさに今インタビューを受けている間も世界で戦争や虐殺が起きて人が亡くなっているのに、「フィクションなんて作っている場合なんだろうか」「芝居をすることになんの意味があるんだろう」って考えてしまうんです。人の生死や生活に関わらない仕事に果たして意味はあるのか?と。

でも、全ての表現は社会と絶対に繋がっているはずで、その自覚を持つべきだと思います。
そして『ルックバック』の藤野は、漫画を描き続けます。藤野が表現し続ける姿勢に自分も背中を押された気がします。

――河合さんのすべてのお仕事に背中を押されている人がいると思いますよ。

ありがとうございます。誠実にお仕事を続けていくことができたらと思います。


取材・文/結城紫雄 
撮影/石田壮一

河合優実「フィクションなんて作っている場合なんだろうか」と葛藤…劇場アニメ『ルックバック』とシンクロする感情とは_5

劇場アニメ「ルックバック」
6月28日公開

キャスト
藤野:河合優実
京本:吉田美月喜
スタッフ
監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
主題歌:「Light song」by haruka nakamura うた : urara
アニメーション制作:スタジオドリアン
© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会