#1

初めての海外…不便さも全部、まるごと体験したい

ヴェネチアは写真だとディズニーみたいにきれいなところだけれど、飛行機を手配してくれた旅行代理店さんに、「車椅子は難しいと思いますよ」と言われていた。

「大丈夫です。不便なのも含めて体験してくるんで、行ってきまーす♪」そう答えたものの、到着すると石畳と階段と橋がめちゃくちゃ多い。

イタリア本土側にある空港からヴェネチア本島まではタクシーを使ったけれど、島内は車の乗り入れが制限されていて、みんな徒歩と水上タクシーで移動する。問題は、ホテルまでどうするか──事前にこんな説明も受けていた。

「このホテルはバリアフリーで、1階には車椅子で問題なく過ごせる客室が3つあります。ただし、ホテルの手前に40段の上り階段があり、橋を渡ってまた階段を40段下りていただくことになります」

同行者と2人、その橋の下でしばし困った。日本ならキャリーケースを下に置いておいて、同行者に私を先に運んでもらえばいい。しかしここはイタリア、目を離した隙にキャリーケースが盗まれてしまうかもしれない。

同行者だけ先にキャリーケース2つを持ってホテルに行ってもらい、私が橋のところで待つパターンも考えたけど、1人になるのはどきどきして怖い。

「人生はライブだから、受け止め方しだい」ミラノコレクションに出演した車椅子モデル・葦原海が、初めての海外で経験した“うんざり”と“楽しさ”_1
『私はないものを数えない。』より ©︎ Sumiyo IDA
すべての画像を見る

そのとき、がらがらと大量のスーツケースを積んだ台車みたいなものが来た。「運ぶ?」みたいに手振りで言ってきて、値段を聞くと10ユーロ、これは頼むしかない!ヴェネチアには荷物の運び屋みたいな仕事があるらしい。

私は車椅子ごと同行者に持ち上げてもらうことにしたけど、まわりの人たちが手伝ってくれた。転倒防止バーを外して、重たい後ろの車輪から引っ張り上げるように登っていくから、人手があって助かった。

「あとでチップを要求されるかも」心配だったけど、地元の人なのか観光客なのか、みんなさっと手伝って、さっと去っていった。

レストランに入ろうとすると、テラス席で食事している人たちが立って手を貸してくれた。ワインを飲んでいい気分だったのかもだけど、たまたまそこにいる関係ないお客さん同士が、さりげなく協力してくれる。

日本だと手伝ってくれるとしても、同じグループの人でやるイメージだから、「こういうのもいいな」と感じた。これも海外らしさなのかもしれない。