ピッチングスタッフ分析  
先発、リリーフとも数字以上に充実している

先発、リリーフとも充実している。昨年のチーム防御率3.08(2位)、ホールド142(1位)がそれを証明している。リリーフ陣では防御率2点以下が多いことに驚かされる。守護神マルティネスの0.39をはじめ、齋藤綱記0.73、藤嶋健人1.07、松山晋也1.27と続き、2点台も勝野昌慶2.01、福敬登と2.55が並ぶ。

セーブ37はリーグ4位に過ぎないが、このうち抑えのマルティネスにセーブポイントがついたのは32試合。リードしている展開でないとつかないのがセーブポイント。

チームが2年連続最下位で、チーム得点390は同リーグ5位広島の493に100以上後れを取る、圧倒的(12球団中)最下位。そしてマルティネスの防御率0.39はセ・リーグのリリーフ投手全般の中でも圧倒的ナンバーワン。

40イニング以上投げた中に防御率0点台は他におらず、1点台も石井大智1.35、岩崎優1.77、桐敷拓馬1.79(ともに阪神)、ターリー1.74(広島、現楽天)、ウェンデルケン(DeNA)1.66、田口麗斗(ヤクルト)1.86、藤嶋健人(中日)1.07だけ。その中でも藤嶋が第2位なので中日リリーフ陣の充実ぶりがわかる。

マルティネスはストレートが最速161キロの速さで、さらに投球フォームが正真正銘のオーバースロー。193センチの長身の頭上高くからリリースされる球に、打者は2階建ての家の屋根から投げ下ろされているような錯覚を覚えるのではないか。

昨年の与四球率0.77、奪三振率11.96も完璧。球数の少ないリリーフ投手には珍しく、ナックルカーブ、ツーシームファストボール、チェンジアップ、スプリットを備え、日本人には徹底してストレートで攻めるのに対し、外国人にはナックルカーブ、チェンジアップなどを連投して打ち取るなど、状況に応じたピッチングができるところが秀逸。

21年オフに3年契約を結んでいるので、それが切れる今季のオフはメジャー各球団を交えた争奪戦が演じられるのは必至。マネー合戦になったら勝ち目はないので、それ以外の魅力で対抗しなければならない。今から準備しないと大変なことになる。

先発陣も頑張っている。昨季、柳裕也は4勝11敗だが、6イニング以上投げて2失点以内が15試合あり、その勝敗は3勝5敗。チームがまともな得点力を備えていればすべて勝っていてもおかしくないので、16勝6敗の可能性もあった。

それほど攻撃力には泣かされてきたのに、7月以降、失点2以内で6イニング以上投げた試合が10試合もあった。防御率2.44は勝敗だけで評価されてなるものか、という柳の反発力の強さを証明している。

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髙橋宏斗の昨季の7勝11敗、防御率2.53にも柳と同じような不運のあとが見える。23年5月7日の巨人戦は7回投げて1失点、6月4日のオリックス戦は7回投げて無失点、8月26日のDeNA戦も7回投げて無失点でも勝ち負けなしという不運。

WBC決勝のアメリカ戦では3対1でリードした5回に登板、トラウトをフォークボール、ゴールドシュミットを156キロのストレートで三振に取ったシーンは日本中の野球ファンが見ている。

ペナントレースの7勝11敗という成績とWBCで見せた熱量の差、つまり国際大会とペナントレースのインパクト(衝撃度)の差の中に、野球ファンに晒している現在の中日の姿が認められるのである。

先発は他にも小笠原慎之介、涌井秀章、福谷浩司、松葉貴大がいて期待の梅津晃大は昨年、8月31日にトミー・ジョン手術からの戦列復帰を果たし、9月にも2試合登板し、9月25日の阪神戦では先発して1失点に抑え1177日ぶりの勝ち星を挙げている。こうして見ると投手陣のレベルは阪神、広島に次ぐ高さと言っていい。


図表/書籍「2024年版 プロ野球問題だらけの12球団」より
写真/shutterstock

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小関順二
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