日本人に「佐藤」さんや「鈴木」さんが多い、意外すぎる理由
去る4月1日、東北大学・高齢経済社会研究センターの吉田浩教授が、なかなか驚くべき試算結果を発表した。
日本がこのまま夫婦別姓を取り入れなかった場合、苗字のバリエーションは徐々に減少していき、およそ500年後の2531年には、日本人全員が「佐藤」さんになるというものである。
これはエイプリルフールのジョークでもなんでもなく、冷静に考えると(時期のことはさておき)当たり前の事実を言っているに過ぎない。
婚姻によって男女のどちらかが相手方の苗字に改姓していくと(現状では女性側の改姓が約95%と大きな偏りがあるが、ジェンダー論はまた別の話)、おのずと多数派はどんどん数を増やし、少数派は減少していく“収斂ゲーム”となる。
すると現在もっとも数量的にリードしている苗字が、いずれどこかの時点でこのゲームの唯一の勝者になるのだ。
ここで疑問に思う人もいるかもしれない。
日本には古くからさまざまな苗字があり、現在もそのバリエーションは保たれている。
それなのになぜ、500年後にはたった一つに収束してしまうのだろうか。
これについての答えは明白で、日本の平民、つまり人口のほとんどを占める人が苗字を持つようになったのは、 1870(明治3)年に定められた「平民苗字許可令」が施行されて以降だからだ。
それまでは限られた特権階級だけのものだった苗字を、国民全員が名乗るようになってから150年ほどしか経過していない現在はまだ、後半にいくほど加速度的に進む“収斂ゲーム”の初期段階で、苗字のバリエーションが保たれている。
ちなみに、現在の日本人になぜ佐藤さんや鈴木さんが多いのかについては諸説あるものの、「平民苗字許可令」が発令されたとき、サンプルとして利用されたからという説が濃厚だ。
このとき平民の家はそれぞれ自由に苗字を定めてよかったのに、初めての経験だったため要領を得ず、多くの家はときの政府が例として示した「佐藤」や「鈴木」などの苗字をそのままつけたということらしい。
佐藤姓自体のルーツはもっともっと昔にさかのぼるもので、明治初期の段階で元・武家を中心にすでに多かったらしいが、平民レベルに一気に拡大したのはこのタイミングだったのだ。
大名・旗本のような名家や、歴史に名を残す武将や貴族に「佐藤」がまったくいなかったことも、多くの平民がこの姓をいただきやすかった理由らしい。
そして、夫婦同姓が法律で義務付けられている国は世界的に見て非常に珍しく、先進国に限ると日本唯一のこと。
アメリカ、イギリス、オーストラリアなどでは「選択的夫婦別姓」が認められ、フランスや韓国、中国などは「原則別姓」。タイやイタリア、トルコなどは、夫婦の姓を合わせる「結合姓」が認められている。
翻り、日本の現状は、日本人同士が結婚する場合は、夫婦どちらかの姓を名乗ることとされている。
民法750条で「夫婦が同じ姓を称する」と定め、これを受けて戸籍法74条1号が、「婚姻届に夫婦が称する単一の姓を記載するもの」としているため、別姓を記載した婚姻届は受理されないのだ。