交通法違反よりも肖像権侵害、名誉棄損が目に余る
「本件は自転車と自動車が接触しておらず、双方ともに怪我や物損がないように見えます。この場合には、それぞれ相手方に請求すべき権利がないので、交通事故で相手を訴える(民事訴訟)ということは考えにくいです。自動車の側が自転車の人物を勝手に撮影してSNSにアップしたことについては、肖像権の侵害、名誉毀損等で訴えることは考えられます。その他、SNSで辛辣なコメントをして名誉毀損をした第三者がいる場合には、自転車の人物はその第三者に損害賠償請求ができる可能性があります」(谷原誠弁護士、以下同)
自動車側はSNSにこのドライブレコーダー動画を投稿した後、大きな話題になるとすぐに動画を削除。しかしネット上では転載動画が溢れ、日を追うごとに動画が拡散されている状態だ。
また、この女性をおもちゃのように扱い、辛辣なコメントを浴びせるだけでなく、画像加工したり、勝手にアフレコをしたりするユーザーも出ている。こうなると、当事者同士では訴訟までいかなくとも、現時点ですでに、第三者との間で訴訟問題に発展するケースがあるかもしれないということだ。
ただ、そもそもこの動画内では、どちらがどんな交通違反を犯していると考えられるのだろうか。こちらも谷原誠弁護士に聞いてみた。集英社オンラインの取材で、車両通行が禁止された時間帯だった可能性が浮上しているが、今回は動画内の情報をもとに解説する。
「まず前提として、この交差点の道路標識は不明なので判断に入れません。そのうえで、自動車側には、特に法律違反は見当たりません。一方で、自転車については、以下が指摘できます。
1 右折の前に右側を走行してきたように見えますが、自転車は道路の中央から左の部分を通行しなければなりません。右折した後も右側を走行しようとしているようです。違反した場合は、3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金等です。
2 自動車側の信号機が青点滅ですから、自転車側は赤あるいは赤点滅と推測します。赤信号では停止しなければならず、赤信号点滅では停止位置で一時停止し、安全確認をしたのち、進行することができます。この場合の停止位置は、横断歩道の直前となりますが、自転車が停止した気配はありません。違反した場合は、3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金等です。
3 自転車が交差点を右折する場合には、十字型交差点では青信号で道路を横断し、向きを変えて赤信号で停止し、青信号に変わったら進行しますが、自転車は直接右折してきています。違反した場合は、2万円以下の罰金等です。
4 自転車は、自動車の進行上に立ち止まり、自動車の進行を妨害しているように見えます。これは、道路における通行の妨害行為であり、法定刑は5万円以下の罰金です。
前科しだいですが、交通前科がなければいきなり懲役はないと思いますが、罰金がありえます」
多くのSNSユーザーが指摘しているように、やはり自転車側が交通違反をしていると考えられるようだ。しかしだからといって、SNS上で袋叩きににするのも、犯罪行為となりかねない。自分が正義だと信じて他者を糾弾する行為は、まさに今回、問題視されている行動なのだが…。
取材・文/集英社オンライン編集部