まったく飲まないことが健康に最もよい
しかし吉本さんは、「このグラフについては、以前から研究者の間では『まったく飲まない人の死亡リスクがこんなに高くはならないのではないか』という指摘がありました。飲酒が血管に対していい効果があるのは確かとはいえ、ほかの病気については少量の飲酒でもリスクが上がることから、トータルで見たら飲酒量は少なければ少ないほうがいいのではないか、と研究者の間では考えられてきたのです」と話す。
そうして研究が続けられ、ついに2018年に世界的権威のある医学雑誌Lancet(ランセット)に画期的な論文が掲載される。
「この論文は、1990~2016年に195の国と地域におけるアルコールの消費量とアルコールに起因する死亡などの関係について分析したもので、健康への悪影響を最小化するアルコールの消費レベルは『ゼロ』であると結論づけています。つまり、『まったく飲まないことが健康に最もよい』ということです」(吉本さん)
この論文のグラフを見ると、もはや Jカーブとはいえないだろう。
「1日の飲酒量が10gくらいまでは疾患リスクの上昇はあるものの緩やかで、それより多くなると明確に上昇傾向を示しています。『飲むなら少量がいい、できたら飲まないほうがいい』ということですね」(吉本さん)
もちろん、論文ひとつで結論が下せるわけではない。だが、「酒は百薬の長」とは言えなくなったのは間違いないだろう。