隠された被害者の存在「確信している」
私は蓮池薫さんに2023年9月にインタビュー取材し、この番号についても聞いた。9月19日に配信された朝日新聞デジタルの記事の中でも触れているが、蓮池さんの見解は異なり、日本人拉致被害者だけに割り振った番号との見方を否定した。
「私と同じ招待所地区にいた工作員も含めて、全員に番号が割り当てられていました。配給や招待所の運営は工作機関ではなく、党の財政経理部という部署でした。
配給などを通じて、工作機関に所属する人の名前が外に漏れないように、すべて番号でやりとりされているのです。すべては秘密保持のためです」
蓮池さんへのインタビュー後、長年にわたって拉致問題に取り組み、北朝鮮側との交渉に臨んだ経験のある政府関係者にも尋ねた。この関係者は「日本人拉致被害者に割り振った番号である可能性が高いと思う。北朝鮮がひた隠しにする被害者が他にもいると、私は確信している」と断言した。番号は何を意味するのか。真相は不明だが、政府は把握できていない日本人被害者が多数いる可能性を踏まえて、北朝鮮と交渉に臨むべきだろう。
一方で、曽我ひとみさんには「12」から始まる番号の記憶はなく、「配給番号」として「709」の数字を覚えていた。1980年に米国人のジェンキンスさんと結婚後、他の元米兵らと軍管理の招待所で生活しており、文書には、別の招待所にいた蓮池さん、地村さん両夫妻とは別の番号で管理されていた可能性が示されている。
これは言い換えれば、蓮池さん、地村さん両夫妻のように朝鮮労働党の対外情報調査部の管理下ではなく、軍の管理下に置かれていた曽我さんのような日本人被害者が他にもいる可能性があるということだ。
北朝鮮当局は今でも、拉致した日本人らを別々の地域に住まわせたり、外出を制限したりして、日本人同士を接触させないように管理しているとみられる。帰国した5人も、北朝鮮で直接会ったことのある他の被害者は横田めぐみさん、田口八重子さん、増元るみ子さんの3人だけだった。政府が把握できていない日本人被害者が多数、存在している可能性はある。
「これまで当局の言うことをよく聞いて、特に問題がなかったので帰国者リストに載せた」
2002年に被害者5人が帰国を準備していた時期に、被害者を管理する指導員が曽我さんにこう打ち明けたという。この証言が本当ならば、他に被害者が存在しながら北朝鮮が発表しなかったとも考えられる。北朝鮮の内情に詳しい日本政府関係者は「認定以外の拉致被害者は当然いる」と話す。