「このバンドも今日で最後だからだ」
ツアーは追加公演を重ね、秋からは半年かけてアメリカ中を回り、翌年には日本でもツアーを敢行する。イギリスに戻ると再び国内を回り、その後はヨーロッパなど翌年までツアーが予定されていた。
だがイギリスツアーの最終日となる1973年7月3日。
ロンドンのハマースミス・オデオンで突如その瞬間は訪れた。コンサートはアンコールに入り、次が最後の1曲という時だった。
「今回のツアーは自分の人生で最高のものになった。中でも今日のステージは一生忘れないだろう。なぜならツアーの最終日というだけではなく、このバンドも今日で最後だからだ。ありがとう」
観客はおろか、バンドメンバーやスタッフすらも驚かせる発言だった。それはジギー・スターダストに飲み込まれてしまおうとしていたデヴィッド・ボウイという人間が、自分自身を取り戻すための唯一の術だった。
数年後、デヴィッドはインタビューでジギーについてこう語っている。
「ぼくもジギーに魅せられていたよ。昼も夜も、あの人物になりきるのはとても簡単なことだった。僕はジギー・スターダストになったんだ。幻想の中で、救いようもないくらい自分を見失っていたのさ」
ジギー・スターダストの最後となった7月3日のコンサートは、1984年にドキュメンタリー映画として公開され、その一部始終を観ることができる。
文/TAP the POP 写真/shutterstock
参考文献
『デヴィッド・ボウイ』ジェリー・ホプキンス著 きむらみか訳(音楽之友社)
『デヴィッド・ボウイ 神話の裏側』ピーター&レニ・ギルマン著 野間けい子訳(CBSソニー出版)