新連載の『ドッグスレッド』に感じる『ゴールデンカムイ』の影響

――新連載の『ドッグスレッド』についてお聞きします。打ち切りとなった『スピナマラダ!』の再創生としてスタートしましたが、前作からかなり変わっていますね。

当初は足りなかった部分を描き足して完全版を本で出せたらいいかな、というつもりでいたのですが、「ヤングジャンプ」本誌で掲載させてくれることになりました。それじゃあ、綺麗に今の絵で描き直そうと考えていたところ、担当氏(ヤングジャンプ編集部・大熊八甲副編集長)から、前作のままではなく「加点が必要です」といわれまして。

じゃあ、いろいろと一から組み立て直そうと考えました。

以前、ゴールデンカムイの連載中に高橋留美子先生とお会いしたとき、スピナマラダ!も読んでくださっていて、ありがたいことに「高校からグッとおもしろくなりましたね」って言ってくださいました。

でも裏を返せば、おもしろくなるまでに時間がかかってしまったということで。
それは僕も自覚していました。
ひとつの競技を極めた人間が、怪我とかではなく、別の競技へ転向するというスポーツ漫画であるならば、そこまでの流れを雑に描いてしまっては、キャラクターに嘘をつかせてしまうと思い、当時は描けなかったんです。

でもゴールデンカムイで成長できたおかげで、ドッグスレッドでは無駄を省きつつ丁寧にテンポよくできたと思います。

〈野田サトルの2024年〉原作を尊重した映画化に「待って本当によかった」…『ゴールデンカムイ』完結からすぐに新連載準備に入った胸中「結果を出さないと雑誌の連載漫画家はすぐに消えていくもの」_4
『ドッグスレッド』 ©野田サトル/集英社

――野田先生の切れ味するどいギャグも、かなり封印されていますね。

今回、何かほかの漫画のパロディはなくそうと思いました。『北斗の拳』とかパロディしていたんですけど全部やめました。少なくとも「これはオマージュですよ」「これはあれのパロディですよ」という笑いの取り方はしていないと思います。

ゴールデンカムイで鯉登父にフレディ・マーキュリーの真似をさせたんですけど、知人から、「最近『ボヘミアン・ラプソディ』観たんですか?」とか聞かれて。

そんな超ミーハーに見られて心外でしたね。でも自分に近い世代だけに受けるように描くのは危険だなって思いました。

〈野田サトルの2024年〉原作を尊重した映画化に「待って本当によかった」…『ゴールデンカムイ』完結からすぐに新連載準備に入った胸中「結果を出さないと雑誌の連載漫画家はすぐに消えていくもの」_5
『ゴールデンカムイ』©野田サトル/集英社

――キャラの造形もかなり変えてこられて、描き分けが強くなったように思えます。

ゴールデンカムイのキャラに似た顔のキャラクターも出ていますね。自分の中で王子様キャラならこういう顔、無骨な性格ならこういう顔というのがあるので、おのずと似てしまうのでしょうね。

ーー主人公のチームに新しいGKを入れたのはとても大きな変更だったと思いますが。しかも尾形百之助に目元や髪型が似ていますね。

やはり強豪校なら一学年にひとりGKがいなくてはと思いました。(源間)浩一が長身なので、背が低めでも俊敏さで勝負している新GKの設定を考えると、なんか尾形のような顔のタイプが思い浮かんできました。

ただ人気のあったキャラに似せた顔を出しただけで単行本を買い続けてもらえるなんて、ド素人みたいな甘い考えは一切ないですよ。

読者さんは、内容がおもしろくなければすぐに離れるだろうと思います。シビアな商業の世界なので、必死で結果を出さないと雑誌の連載漫画家はすぐに消えていくものだと常に思っています。

ゴールデンカムイのファンが喜んでくれたら、それはそれでうれしいですけどね。