過去4回の通報、問われた県警の対応
事件は6月29日に発生。神奈川県警鶴見署が同日、殺人容疑で伊藤被告を緊急逮捕し、横浜地検が7月20日、殺人や窃盗、横領、住居侵入の罪で横浜地裁に起訴した。
起訴状などによると、伊藤被告は6月29日、マンション敷地内の車両用通路脇で冨永さんの首、胸、腹を包丁で4回突き刺して殺害した。死因は出血性ショックだった。また、冨永さんが伊藤被告のアパートに置き忘れた鍵を横領して事件直前にマンションの部屋に侵入、凶器の包丁は同日、鶴見区内の店舗から盗んだものだった。
事件の1週間ほど前に2人は交際関係を解消していたが、伊藤被告は復縁を迫って何度もメールを送りつけたり、冨永さんのアルバイト先に押しかけるなどしていた。事件当日は横領した鍵を使って部屋に侵入、いったんは促されて外に出たがその後も付近で待機し、冨永さんが通学のために父親に車で送ってもらおうと外に出たところを襲ったとされる。
伊藤被告は調べに対し「よりを戻したかったが説得できず、悲鳴を上げられたので刺した」などと供述していた。
事件に先立ち、神奈川県警はこの2人の交際トラブルで4回通報を受けて対応にあたっていたが、冨永さん本人から被害届が出されるまでには至らず、立件されなかった経緯がある。約2年に及んだ交際期間中も伊藤被告のDVが絶えず、冨永さんが「馬乗りになって殴られた」などと友人に漏らすこともあった。
DVは伊藤被告のアパートなどで行われ、2021年10月から今年6月22日までに計4回、冨永さんや友人、激しく言い争う声を聞いた住人などから通報が寄せられ、県警が対処。このうち昨年12月のケースで冨永さんは「別れるなら殺すと言われ、首を絞められた」と説明したが、被害届提出の意思はなかったといい、県警はストーカー規制法に基づく禁止命令は行わなかった。