「もう私たちだけの問題じゃなくて、社会的な問題になっている」

しかし、X子さんは安田家との関係を断絶、以降は連絡を取り合うことも一切なくなった。

そして暦がひと回り過ぎた2018年、警視庁の担当者から突然、再捜査の連絡があった。この間、X子さんはクラブホステス時代に知り合った木原誠二衆院議員と結婚、さらに2子をもうけていた。

だが、「今度こそ」の遺族の願いも虚しく、捜査はあっという間に沙汰止みになった。28歳で絶命した種雄さんの妻だったX子さんは、「有力政治家の妻」にステップアップしていた。

木原誠二衆院議員(写真/共同通信社)
木原誠二衆院議員(写真/共同通信社)

「木原さんが圧力かけたとか、そういった話はそのときは出てないですね。ただ、木原さんの存在は聞いていたので『真相はどうなんだろうね』とは考えますよね。前回のこともありますし。そうしたら、2018年の11月ごろだったか年末だったか、『担当者が異動したので年明けに新しい遺族担当が挨拶に来ます』と連絡があり、警察に呼ばれたのは翌2019年の5月でした。このときは『体制は縮小しますけれども捜査はまだまだ続けます』という話でしたが、それから今回の文春さんの記事が出るまでは、もうそのままだったので。

なので、私たちは『またなんだな』『やっぱりな』と、だったら再捜査なんてしてくれなくてよかったのにって気持ちになりました。これだけ傷を掘り起こされて、期待させて、また落とされてって。まあ、警察の方は悪くないんでしょうけど」

そして今回、週刊文春の報道がきっかけで、世論に押されるような形も相まって、再々捜査が始まった。

「正直、私たちはすごく不思議な気持ちなんですよね。2006年に、本当に一旦諦めたんで。それが2018年に再捜査っていう話自体も、いまだに不思議で。事件から12年後にもう一回その事件が目に留まって、もう一回捜査をしてくれるっていうことが、不思議で不思議で。

でも、そこからさらに落とされて、本当にもう諦めたんですよ。ですが今回、文春さんの記事でこれだけのことが世間に晒されることになったので。もうね、文春さんにもですけど、何よりも、佐藤誠さん(X子さんの取調官を務めた元警部補)が証言してくださったことはものすごく大きくて」

大塚警察署(撮影/集英社オンライン)
大塚警察署(撮影/集英社オンライン)

被疑者不詳の殺人事件として告訴したのも、そうして巡ってきた最後のチャンスに賭ける気持ちが強いからだ。真実を閉じようとした蓋は17年の歳月を耐えかね、いまや朽ち果てる寸前だ。

「もう私たちだけの問題じゃなくて、社会的な問題になってる部分もありますよね。なので、半ば使命のような『ちゃんとやらなきゃな』という気持ちです。せっかくこういう機会を与えてもらったので、私たちもちゃんと覚悟して、どういう結果になるかはわからないけれども、みんなが望む結果になる、そういう風にただ信じて。できることを一生懸命やろうと思ってます」

種雄さんの遺骨は、まだお墓に納骨せずに母親が手元に置いているという。

「冷たい土の中に、息子を置き去りにするのは耐えられないという気持ちなんだと思います。母は『私が死んだら、一緒に墓に入れてほしい』と言っています。父も母ももう歳なんですけど、このまま真相が明らかにならずに死んでいくのは、やっぱり悔しいと思うんですよね。この17年間、弟がいなくなったことでずっと苦しんできた。

それはこの先も変わらないけれど、せめて、せめてその心のつっかえを外して、この先何年生きるかわからないですけど、残りの人生をちょっとでも肩の力を抜いて、生きてほしいなって、娘の私からそう思います。本当に、このまま辛い気持ちのままで残りの余生を過ごすのではなくって。犯人、捕まってほしいですね」

28歳の青年の魂は、まだ彷徨っている。

取材に応じる種雄さんの姉
取材に応じる種雄さんの姉
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班