野宿者の社会復帰までに寄り添う「伴走型」の支援

法改正によって、たしかに生活保護はもらいやすくなった。けれども、支援がそれで終わってはいけないと奥田さんは強調する。生活保護につなげ、アパートに入ってもらったところで関係性を終えてしまうというような「問題解決型」ではいけない、と言うのだ。

<斎藤幸平>「ハウスがあってもホームがない人々」の社会復帰までに寄り添う“伴走型”の支援――北九州NPO法人「抱樸」の挑戦_2
抱樸が行っている炊き出しの様子(公式インスタより)

ここに「抱樸」の独自性がある。つまり、野宿者たちが本当の意味で社会復帰をしていけるように、その後も時間をかけて支援をしていく「伴走型」が「抱樸」のスタイルなのだ。「伴走型」の特徴を奥田さんは「ホームレス」と「ハウスレス」の区別で説明してくれた。

野宿者は、文字通り「家がない」状態であり、これを「ハウスレス」と呼ぶ。このような経済的困窮は、生活保護をもらって、アパートに入ることで解決することができる。

「しかし、それだけでは必ずしも社会のなかでの居場所は見つからない」と奥田さんは言う。どういうことか。仮にアパートに入っても、家族、ご近所さん、友人とのつながりがない状況が続くなら、結局は部屋に閉じこもって、ますます社会からは孤立してしまう可能性がある。

その結果、健康を害してしまったり、仕事を見つけられず社会復帰ができない人もいる。要するに、困ったときに「助けて」の合図が出せないまま、社会的孤立が続く。それが「ホームレス」の状態だ。

「ホームレス」を脱するためには、毎日の料理や洗濯といった日常的習慣を取り戻す必要もあるし、周りの人たちとも交流して信頼関係を築く方法を学び直さないといけない。それは長年にわたって、社会の片隅で夜間の襲撃などに怯えながら野宿をしてきた人にすぐにできることではない。時間のかかるケアが必要となるのである。

だから、奥田さんは「抱樸館」という施設を2013年に作った。2001年からはじまった、路上生活から自立生活への橋渡しとなる支援住宅で、一階には食堂があったり、相談員が常駐したりしている。また、2017年に「抱樸」が一棟丸々借り上げ、2021年に購入したというアパートにも連れていってもらった。こちらは、単身生活が可能になったときに入居できるアパートで、保証人などの問題をクリアしやすくしている。

どちらも建設費や購入費が数億円単位でかかっており、これは、もはや普通のNPOではない。奥田さんは起業家だと、私は唸った。もちろんその起業の精神の意味は、ネグリやハートが言う「アントレプレナーシップ」のことだ。