「こんなゴミみたいなの一体誰が聴くんだ?」
ウォーターズはデモテープをすぐさま政治風刺漫画家ジェラルド・スカーフに聞かせて、キャラクターのイラストを依頼。
スカーフの描くグロテスクな画がウォーターズの歌詞に影響を与え、新しい歌詞がまた新しいイラストを生むということが繰り返されていった。
レコーディング中もロジャーと他のメンバーたちの確執は深まるばかりで、実際にリチャード・ライトは解雇された。
こうした混乱した状況の中、2枚組アルバム『THE WALL』が1979年11月30日にリリースされた。
出来上がった作品は、急降下する戦闘機の爆音から始まるロック・オペラ。レコード会社の重役たちは声を揃えてこう言ったそうだ。
「こんなゴミみたいなの一体誰が聴くんだ?」
しかし、そんな反応をよそに11年ぶりにリリースしたシングル『Another Brick in the Wall (Part II)』がイギリスやアメリカなどでNo.1ヒットを記録。アルバムもすぐにプラチナディスクを獲得し、現在までにアメリカだけで2300万セット、世界で3000万セット以上を売り上げている。
ここで話は終わらない。
『THE WALL』が革新的だったのはコンセプト・アルバム制作だけでなく、ステージショウと映画から成立するメディアミックス・プロジェクトだったのだ。
レコードに続き、1980年2月からスタートしたロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、西ドイツを巡回した29回のステージショウも圧巻だった。
冒頭、ピンク・フロイドが登場して1曲目の『In The Flesh?』が終わると、戦闘機が客席の頭上からステージに墜落して火花を散らす。すると今度は後ろから別のピンク・フロイドが登場する。最初に登場したバンドは影武者だったのだ。
物語が進むにつれステージ上では400個の頑丈なダンボールで作られたレンガが積み上げられていく。こうして中盤ではバンドと観客の間に高さ12メートルもある“壁”が本当に築かれた。そしてクライマックスでは壁が崩壊するのだ。
この前代未聞のショウは50万席のチケットが完売し、各メディアから大絶賛されたにも関わらず、セットに費用がかかりすぎて赤字を出す羽目になった。このツアーでメンバーは3億円の借金を抱えたという。