キースの怒りが爆発、ミックの「ストーンズは重荷だ」発言
そんな状況の中でストーンズはCBSと莫大なレコード契約を結ぶ。しかし、この契約の裏ではミックがソロアルバムを数作出すプロジェクトが密かに抱き合わせで組み込まれていた。
ミックがそのことをバンドの誰にも言わなかったことで、キースの怒りはついに爆発した。
1985年、ミックは計画通り最初のソロ作『SHE’S THE BOSS』をリリース。同じ年、ストーンズはキース主導で『Dirty Work』を制作するが、ミックはツアーに出ることを拒んだ。自分の次のソロ活動を進めたかったのだ。
イギリスの新聞に掲載されたインタビューでは「ストーンズは重荷だ」とまで語ってしまう。キースが「第三次世界大戦が始まった」と零したように、その関係は修復不可能なレベルにまで達した。
君は僕のナンバーワンだった
でもそんな日々ももう終わってしまった
時代は変わったけど 魅惑は今も残っている
愛は成就するけど 情熱はやがて消えて行く
1987年にリリースされたミックのソロ2作目『Primitive Cool』のハイライトとも言える『Party Doll』は、明らかにキースとの友情の終わりを歌っていた。
この曲にはミックとキースが長年敬愛するアイルランドのバンド、チーフタンズのパディ・モローニやショーン・ケーンがゲスト参加していたのが意味深い。
アイルランドの孤高の響きが“二人の物悲しい別れ”を象徴しているようで、ストーンズの長い歴史を知る聴き手にとっては、かつての光景が走馬灯のように駆け巡る感動的な曲だった。
離別の歴史を歩み続けたアイルランドの孤高の響きが、二人の心に何を訴えたのだろう?
──ミックとキースが歩み寄り、1989年になって最大の危機を乗り越えたストーンズは再び転がり始めていた。
文/中野充浩 サムネイル写真/shutterstock
*参考・コメント引用/キース・リチャーズ自伝『ライフ』(棚橋志行訳/楓書店)