売上額の伸びほど利益は増えていない

売上増大で公営競技の収支が改善し、自治体財政への繰出も復活している。

法的に「地方財政への寄与」が目的とされている以上、公営競技の収支が改善されれば自治体財源への繰入をしないわけにはいかない。

1991年度には3421億円が自治体の財政に繰り入れられた。その後公営競技「冬の時代」の2011年度の繰入金は121億円にまで減り、その後公営競技の売上が増えるにしたがって増加し、20年度には714億円にまで回復している。

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売上額がバブル期に近くなった割に繰出金が増えていないのは、これまでの赤字の補てんや今後に備えての基金の造成がおこなわれているからだ。

加えて、地方競馬や競輪・オートレースでは売上にしめる民間ポータルの比率が高いため、見た目の売上額の伸びほど主催者・施行者の取り分が増えているわけではないという面もある。

公営競技からの収益金の多くはかつてインフラ整備の財源だった。初期には住宅、高度経済成長期には学校建設などが主たる使途だった。

バブル期にはいわゆる「箱物行政」の財源となった。1991年度の使途をみると、繰入額の36.8パーセントが土木費、30.4パーセントが教育費に充てられていたが、2020年度には土木費は15.4パーセント、教育費は23.9パーセントとそれぞれ比率を下げている。

地方財政状況調査の費目は、民生費、衛生費、土木費、農林水産業費、商工費、教育費、災害復旧費、その他、および公営事業会計へ繰出となっており、20年度は「その他」が50.7パーセントと半分をしめている。

今や公営競技の収益で何かを造るという時代ではなくなっている。

文/古林英一

#1『公営競技と暴力団…かつて社会問題となった八百長レースの実態とノミ屋の興隆から衰退にいたるまで』はこちらから

#3『職業体験・社会見学の一環としてボートレース場に行く小中学校、「五輪種目」になるケイリン…公営競技はほんとうに迷惑施設なのか』はこちらから

『公営競技史 競馬・競輪・オートレース・ボートレース』 (角川新書) 
古林 英一 (著)
パチンコ派を強奪、有名タレントのCM攻勢…バブル崩壊後、凋落し続けていた公営競技はいかにして“V字回復”したか_5
2023/8/10
¥1,100 
320ページ
ISBN:978-4040824697
「公害」から「エンタメ」へ 7兆5000億円の巨大市場へいたる興隆史

世界に類をみない独自のギャンブル産業はいかに生まれ、存続してきたのか。戦後、復興と地方財政の健全化を目的に公営競技は誕生した。高度経済成長期やバブル期には爆発的に売上が増大するも、さまざまな社会問題を引き起こし、幾度も危機を迎える。さらに低迷期を経たが、7兆5000億円市場に再生した。各競技の前史からV字回復の要因、今後の課題までを、地域経済の関わりから研究してきた第一人者が分析する。

【目次】
序章 活況に沸く公営競技界
第一章 夜明け前――競馬、自転車、オートバイの誕生 一八六二~一九四五年
第二章 公営競技の誕生――戦後の混沌で 一九四五~五五年
第三章 「戦後」からの脱却――騒擾事件と存廃問題 一九五五~六二年
第四章 高度成長期の膨張と桎梏――「ギャンブル公害」の時代 一九六二~七四年
第五章 低成長からバブルへ――「公害」からの脱却 一九七四~九一年
第六章 バブル崩壊後の縮小と拡張――売上減から過去最大の活況へ 一九九一年~
終章 公営競技の明日
あとがき
参考・引用文献一覧 
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