「『文化資本の差』は腐っている地方出身者の免罪符」
児玉 麻布さん自身は、都会コンプレックスがあるんですか?
麻布 インタビューなんかだと、リップサービスで「あります!」って言ったりするんですけど、実は全然なくて。僕は自己責任論者のマッチョイズムサラリーマンなので、「文化資本がないから東京出身の金持ち育ちに勝てない」といった意見は、行動していない人の言い訳にしか聞こえないんです。
だって、東京に生まれただけで自動的に文化資本が注入されるわけでもないし、大学で東京に出てきたとしても、そこからの時間で自己再教育すれば巻き返せることもあるでしょう。「文化資本の差」って、行動しないで腐ってる地方出身者の免罪符みたいになっているな、とも思います。
児玉 私は横浜の、日本全体から見ると経済的に余裕のある家庭に生まれましたが、自分も含め、みんながみんな文化資本にも恵まれていたかと思い返すと、ちょっと疑問が残ります。大学で同級生になった地方出身のガッツがある人のほうが、よっぽど聡明で有能だったような……ああ、でもこれ言い方が難しいな……。
麻布 江戸POPの最終章に書いてある、「都内の家賃が高い」と悩む地方出身の同級生に対する「じゃあ、23区外に住めばいいじゃん」って発言、パンチラインですよね(笑)。東京に執着がないからこそ言える言葉だ。
児玉 いや、今はわかるんですよ、「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」のような、相手の気持ちを汲み取らない発言だってことは……。私ってたぶん、『このタワ』に出てくる地方から上京してきた人の敵、つまり「持っている」寄りの人間なんですよね。
麻布 完全に敵です!
児玉 『このタワ』の「東京クソ街図鑑」に「いっそ多摩川を渡って新丸子のアパートにでも住むのがいいよ(笑)」というディスがありますよね。私はずっと、「多摩川を挟んで東京と川崎に分かれる」っていう感覚がありませんでした。「電車の車窓から見える景色、きれいだなー」くらいの印象で。
麻布 あはははは(笑)。僕は一時期毎日、多摩川を渡って東京と川崎を往復していましたよ。あれは大きな溝に感じました。
児玉 『このタワ』を読んで、「東京」なる言葉のイメージの答え合わせをしたような感覚になりました。
【後編】「東京出身/成功していない、という層は可視化されていないんです」「港区女子が幸せとは限らない」児玉雨子と麻布競馬場が着目する、まだ物語になっていない都会の人々
文・インタビュー/崎谷実穂
写真/山田秀隆
編集/毛内達大