人の体に興味がない
この男性とは、何ごともなかったように「普通の友達」に戻っているが、大学でけっして出逢いがないわけではなかったはずだ。おそらく、シェリーさんが男性に対してアンテナを立てていなかっただけではないか、と私には思えた。現にジェンダーの研究関係で、オーストラリアでも日本でも、食事に一緒に行くくらいの男友達はいる。
「でも今、会ってる友達は研究の対象だから、あまり深くは……」
あくまでも研究のために時間を共有している、とシェリーさんは言う。
が、もしかして? と、閃いた私は質問の方法を変えてみた。
「好きなのは男性と女性、どっち?」
「誰でも。どっちでも」
シェリーさんは笑っていなかった。私は、国際人のジェンダー意識の高さを知った。
「子供の時から、どっちがとか、あまり考えてなかったですね。あまり人を男性・女性として見てないのかもしれないんですね。男性である〇〇さんじゃなくて、〇〇さんとして見てますよね。性的対象としては別に……」
研究者らしい答えが返ってきた。しつこいと思われそうだったが、まだ私はあきらめきれない。35歳の女性がどうして恋愛をひとつもしてこなかったのか。理解しにくいのだ。私は質問を続けた。
「男性の体に本当に興味ないの?」
「人の体にあまり興味ない」
淡々と答えるシェリーさんに、
「逞しい男性のシックスパック(腹筋割れ)を見ても?」
と聞いても、
「ない。私の場合は、野菜しか食べない人がお肉を見ても『別に』と思うのと一緒の感覚」
淡々としている。このように言われてしまうと、長年肉断ちをしている私は、納得できてしまうのだ。ならば、シェリーさんは肉体ではなく、顔のほうに重きを置いているのだろうか。