日本人にも年齢別に縄張りがある
歌舞伎町の最深部にある大久保公園には連日、方々から男たちが集まってくる。仲間と路上で缶ビールを飲みながらダベったり、ひとり周辺を行ったり来たりして思い思いに過ごす。学生風、スーツ姿のサラリーマン、革ジャンを着たバンドマンのような男、どんな仕事をしているかわからない初老の男──界隈に集う男たちの群れ、その数およそ50人以上。
夜7時──。友人のライター・仙頭正教と現地で合流し、ふたりで界隈を歩く。目的は立ちんぼエリアをガイドしてもらうことである。〝歌舞伎町案内人〟を自称する仙頭は長年この界隈をウオッチし、ときには街娼や買春客らに話を聞いて、それを発信し続けている男だ。
「みんな必ずしも買いに来ているわけじゃないけどね。いまや観光地化していて、どんなものかと見に来ているだけだったり、あの子は新顔だ、いや前にも見たことがあると、仲間とワーワー言いながら酒飲んでるだけの男も多いよ」
もっとも多くの男たちが訪れる理由は、ここに来れば実物を見て女性を選び簡単にセックスできるからだ。出会いカフェは入場料や外出料など売春代以外のカネがかかるが、ここではそれがないため、格安で遊べる格好の猟場になっている。
「外国人の立ちんぼが出身国別に固まってるならわかるけど、日本人にも年齢別に縄張りがあるっていうのも面白いよね」
縄張り──。いみじくも仙頭が語ったように、街娼たちが商売をするエリアは、10代から20代前半の若い女性は大久保病院側、30代以上のベテラン勢は『公益社団法人日本駆け込み寺』や『真野美容専門学校』がある公園裏の路地と、きっちり棲み分けされている。
この日、公園裏の路地の街娼はわずか数人である。対して大久保病院側は、20人弱が2、3メートル間隔で立つ異様な光景が広がる。大久保病院側は直線距離にして50メートルほどしかないため、そこからあぶれて数軒のラブホテルがあるハイジア西側の細い路地に立つ女性もいた。
売買春目的の街娼や好事家たちを取り巻くのは大久保病院、歌舞伎町交番、ハイジアなどの施設だ。これほどまでに相容れないものが共存しているエリアも珍しい。しかもこの日、公園内は次世代を担う若手店主の人気店から老舗有名店までが出店し売り上げを競うイベント『大つけ麺博』の真っ最中で、界隈を行き来する若いカップルも少なくない。うち、ひと組の女性のほうが、奇異の目をして街娼たちへ関心を示すのを僕は見逃さなかった。対する街娼たちはしかし、何食わぬ顔だ。