財政破綻に関する奇妙なパラドックス
例えば、経常赤字の国は、常に資金が流出して通貨安になるとは限らない。米国は巨大な経常赤字国だが、ドル高である。帳簿上の変化は、需給を静止させた状態を記述するものであり、需給の変動そのものを説明することは原理的にできない。
逆に言えば、静止させた状態で記述すれば、価格変動さえ発生しないことになる。「財政不倒神話」を語る人の話で、マーケットの需給の話をする人はあまり見当たらない。繰り返すが、国債価格は需給で決まっている。需要不足、供給超過が継続的に起こらないことは、資金移動を静止させた世界の記述では捉えられない。つまり、「財政不安など起こらない」という議論は、前提の中に結論が先取りされた議論になっている。
では、資産価格の極端な変動を生むとすればそれは何なのか。ここが財政不安の本質だ。その答えは「信用」である。信用を失えば、日本国債は売られる。逆に、信用が保たれれば、海外投資家が国債をどんなに売っても、国内投資家は国債を買い支えるだろう。今までのところ、日本の財政の信用がぎりぎりのところで保たれているから、日本国債暴落などが生じていないと筆者は考えている。
この見方は、奇妙なパラドックスを生んでいる。もしも、日本政府自身が、「財政は絶対に破綻しないものだ」などと言って、国債発行を乱発すると、たちまち信用を失う。なぜならば、国内投資家たちは、日本政府が元利払いを確実に保証し、将来的に財政再建をすると約束するから、その信用で国債を買っているのだ。日本政府が「財政不倒神話」を拒否するから、日本国債は信用されている。だから、政府は信用を失うような言動をしないのだ。
文/熊野英生 写真/shutterstock
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