財政破綻に関する奇妙なパラドックス

例えば、経常赤字の国は、常に資金が流出して通貨安になるとは限らない。米国は巨大な経常赤字国だが、ドル高である。帳簿上の変化は、需給を静止させた状態を記述するものであり、需給の変動そのものを説明することは原理的にできない。

逆に言えば、静止させた状態で記述すれば、価格変動さえ発生しないことになる。「財政不倒神話」を語る人の話で、マーケットの需給の話をする人はあまり見当たらない。繰り返すが、国債価格は需給で決まっている。需要不足、供給超過が継続的に起こらないことは、資金移動を静止させた世界の記述では捉えられない。つまり、「財政不安など起こらない」という議論は、前提の中に結論が先取りされた議論になっている。

「日本に国家破綻はない」は本当か? 国家破綻が毎回、「今回は違います」と言われてやってくる理由_4
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では、資産価格の極端な変動を生むとすればそれは何なのか。ここが財政不安の本質だ。その答えは「信用」である。信用を失えば、日本国債は売られる。逆に、信用が保たれれば、海外投資家が国債をどんなに売っても、国内投資家は国債を買い支えるだろう。今までのところ、日本の財政の信用がぎりぎりのところで保たれているから、日本国債暴落などが生じていないと筆者は考えている。

この見方は、奇妙なパラドックスを生んでいる。もしも、日本政府自身が、「財政は絶対に破綻しないものだ」などと言って、国債発行を乱発すると、たちまち信用を失う。なぜならば、国内投資家たちは、日本政府が元利払いを確実に保証し、将来的に財政再建をすると約束するから、その信用で国債を買っているのだ。日本政府が「財政不倒神話」を拒否するから、日本国債は信用されている。だから、政府は信用を失うような言動をしないのだ。

文/熊野英生 写真/shutterstock

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#4 気づかぬうちに円資産の価値がどんどん減価している! 日本国民はほぼ不可避、本当に怖い「インフレ課税」

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熊野 英生
「日本に国家破綻はない」は本当か? 国家破綻が毎回、「今回は違います」と言われてやってくる理由_5
2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
ISBN:978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
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