200人近くの予約が台無しに

「月うさぎの里」は事件当日、インバウンド観光客を含めて200人近くの予約が入っていたが、珍客の突然の来訪で台無しになってしまった。女性従業員が語る。

「私が午前9時ごろに出勤したとき、建物の周りにパトカー2台と猟銃を抱えた猟友会の方が何人かいたので『これは只事ではないな』とすぐにわかりました。私は警察のかたに言われるまま自分の車の中に待機して、続いて社長を含めた13人の従業員が建物から離れた事務所に避難しました。
第一発見者の従業員の話によると、クマは1階の飲食スペースで、窓を爪でガリガリと削っていたそうです。発見者はクマとは50メートルほど離れていて、テーブルやイスといった障害物もあったので、すぐに襲われる気配はなかったそうです」

月うさぎの里(Facebookより)
月うさぎの里(Facebookより)

クマの体長は1メートル60センチくらいだったという。ウサギとの触れ合いができることが人気の施設だが、これまでクマが出たことはなかった。

「ほかの従業員も『まさかクマが出るとは…』とか『長年勤めてきたけど、こんなことは初めて』と驚いている方ばかりでした。その後、社長以外の従業員は全員、警察の輸送車で警察署に避難して、当時の現場の状況について取り調べを受けて、昼過ぎには帰宅しました。後から聞いた話では、クマは1階レストランの厨房裏口から入ってきたようです。
また、1階と2階の階段の踊り場の窓が開いていて、その付近にクマのフンがたくさん落ちていたので、出ていったのはその窓からじゃないか、とみんなで話していました」

建物の外の敷地内にはウサギが全部で50匹ほどいるが、すべて無事を確認できたという。

「この施設は『ショッピング』と『うさぎの見学』、そして『レストラン』がセットになっていて、団体客が多い施設です。その日は朝から県外のバスツアーご一行さま、昼には台湾の団体さま、そして夕方からもツアーのお客さまが来られる予定で、200人近くの予約が入っていました。また、土日は家族連れのお客さまも多いので、そういった意味でも、クマが営業時間前に現れたのは不幸中の幸いでしたね」

ツキノワグマ(写真はイメージです)
ツキノワグマ(写真はイメージです)

クマとの付き合いの長い猟友会員も、さすがに今回の現場は緊張したという。
石川県猟友会加賀支部の小谷口幸司支部長はこう証言した。

「今回の加賀市の担当者からの出動要請連絡は、普段と違ってかなり緊迫した状況が伝わってきました。というのもうちの支部は全部で59人中、クマの駆除隊は14人で、通常はそのうちの3〜5人で出動するのですが、今回は『緊急出動』として12人が対応しました。緊急出動は3年前の『アビオシティ加賀』の店内にクマが入ったとき以来だったので、緊張感が走りました」