「犯罪を他人事ではなく、なるべく一番身近なものに」
現在、草下氏のTwitterはフォロワー数が12万人。インフルエンサー並みの発信力がある。これについても独自の見解があった。
「基本的にはTwitterは備忘録的でありネタ帳的な感じで使ってるんです。今日ランチした元ドラッグの売人から聞いた話などもツイートしましたし。それ以外は、やはり商品をいかに購買に結びつけていくかをうまく告知する場として使っています。『ぼくのツアーリ』は今こそ読んでほしいから、投稿しようと思うんです」
もちろん備忘録や告知だけが目的ではない。
「なにより犯罪が実は身近なものであるということを発信していきたいんです。詐欺や強盗だったり、さまざまな事件があちこちで起きている中で、いつ何時、自分もそれに巻き込まれるかわからない状況になっている。犯罪をテレビの向こうのものとして捉えないように、ある程度、近いものとして捉えることを発信していきたいという思いがあります」
裏社会の人間と深く関わる草下氏だが、その本人は静岡県の沼津市で父は建設会社に勤め、母は専業主婦で2人兄弟の長男としてごく普通の中流家庭で高校卒業までを過ごした。現在44歳。自身のパートナーや家族について聞くと「プライベートな情報は表に出さないようにしている」という。
「特定の犯罪集団や国家絡みの事件や陰謀など、本当に拉致や誘拐の危険もつきまとうテーマを扱うこともあるので、個人情報を公にすることはリスクでしかないんですね。
以前、総会屋を取材した時に印刷ギリギリのところで『掲載辞退したい』と申し出があり、断って掲載に踏み切ろうとすると私の自宅住所が知られており、背筋が凍ったことがあります。だからプライベートな情報は極力出さないようにしています。そもそも私の情報なんか誰も知りたくないですけどね」
どんな裏社会に関わる人間も、自分の子供を持つと人が変わったように丸くなるという話を聞くことがある。長年、裏社会を取材してきた草下氏に、最後に「自分の子孫を残したいという欲はないのか」と聞いた。その答えは裏社会を取材してきた裏方編集者としての答えそのものだった。
「生まれてくる子供は宝ですが、私は自分からわざわざ人間を増やさなくていいと思っています。子供といっても“小さな人間”ですからね。
それはどこかで人間に絶望しているからかもしれません。さまざまな取材を経て、人間の欲深さや救えない部分を見過ぎてきてしまったのかな。しかし、それでも人間を嫌いになりきれないところに面白さがあると思います」
人間に絶望していると言いながらも「人と関わり表現していきたい」という。
「特異な人生を歩んでいる人は大勢います。そして彼らの中には過去との折り合いが付かずに苦しんでいたり、現状でトラブルを抱えている人も多い。ただ、その苦しみの経験が、いつか同じような状況に苦しんでいる人を助けたり、ちょっとした希望になったりする。そうした誰かの経験が誰かの救いになるような物語を紡いでいきたいんです」
『地元最高!』はまさに、そんな物語の1つだ。
【漫画】『地元最高!』(1~10話)を読む(漫画を読むをクリック)
取材・文・撮影/河合桃子