「日本はお金持ちの国だと思ってるからね」
フィリピンの親戚からは、電話やメッセンジャーで「食べるものがないから食費を送ってくれ」「病気だから薬代をくれ」と何度も連絡が来る。家族には送金をしろと言うミカだが、親戚からの要望に関しては、「全部無視して。お金ちょうだいしか言わないから」と言う。
ミカの携帯には、未読メッセージと、出なかった着信履歴の山が残されている。ミカに連絡がつかない親戚たちが、夫の僕に連絡をしてくる。僕もやりとりするうちに、すぐに「お金を送ってほしい」というお願いに変わるのに疲れ果てて、返信をしなくなった。
「日本はお金持ちの国だと思ってるからね」とミカは言う。今は確かに、フィリピンに比べれば日本の方が経済的に豊かだ。フィリピンでは、僕が日本人と分かると「私も日本に行きたい」といってくる人は多いし、実際に日本で働くことを目指している友人もいる。
だが実際は、いくらでも送金をできるほど豊かな生活ではない。サラリーマンとして貰える給料は額面上の金額から厚生年金、健康保険、住民税など、かなりの額が引かれるから、手取りにすると驚くほど少なくなる。そこから、生活費を捻出するのだから、正直、余裕はない。
90年代に興行ビザで来日し、その後日本でシングルマザーとして3人の子供たちを育てたあるフィリピン女性はこういう。
「日本はお金持ちの国だと思った。昔はいっぱい稼いだこともあった。でも自分で生活してみると大変。毎月、家賃、ガス、水道、保険、子供の学費。そんなん払ったらお金ない。日本で何のために仕事をするか。それはお金持ちになるためじゃない。支払いをするため。でもフィリピンにいる家族はそのことをわからない。だからずっとお金ちょうだいばかり言う。こっちの生活のことなんてわからないし、考えない」
日本に対して、金持ちの国というイメージしか持たないフィリピンの家族や親戚たち。ミカも、遠く離れた家族を心配させたくないから、大変な部分は見せようとしない。フィリピンに帰る時は大量の土産を持参し、家族に小遣いをあげ、日本で「成功」しているようにみせる。だから家族からの急な金の無心にも、何としてでも応えようとする。