ゼロコロナ政策のプレッシャー

綿矢 なるほど。今まで他の国で使われてきたお金が、中国国内で使われているとなると、国内消費はすごいことになっていそうですね。

中島 そうですね。でも、昨年(2021年)の夏頃から、オリンピックやゼロコロナ政策のために規制が厳しくなりました。時期や都市によって、そのつど規制の内容は変わりますので一概にはいえませんが、省をまたぐ旅行に行く人は、勤務先や、子どもの学校に報告しなければいけないので、そのプレッシャーや面倒臭さもあって、あえて遠出しないという人もいます。

綿矢 確かにそれだけ厳しいと、あえて遠出しようとは思わなくなるかも。書類を提出したりするんですか?

中島 はい、書類を提出する場合もあるようです。コロナの感染リスクが高い地域の場合、低い地域の場合、また、省によって、勤務先によっても違いますので、具体的にはわかりませんが。
 省をまたぐ外出でなくても、自分が出かけた施設で同時期に感染者が出れば、PCR検査をしなければなりません。たとえば去年、上海ディズニーランドでコロナの感染者が出たときは、そこにいた全員のPCR検査が実施され、最後に帰った人は翌朝だったと聞きました。

綿矢 その場に居合わせたら「ええ?!」って感じでしょうね。厳格にされている分、もしも感染したら、ものすごく目立ちそう。

中島 コロナ対策の規則に違反すると刑事罰を科せられる場合もありますので。もし旅行先で感染したり、同じ宿泊先に感染者が出たりすると、自分たちも隔離の対象となってしまいます。

綿矢 楽しい気持ちになりに行くのに、感染とか隔離とか、デメリットを考えると行きづらくなってしまいますね。

中島 ええ。なので、大型連休でも、近場の旅行や贅沢な食事をするくらいしかできないと言っている人もいました。

綿矢 コロナ前の中国の人たちは、いろんなところに出かけて、いろんなものを食べて、いろんな国に詳しくなって、と非常にパワフルでしたが、その勢いは今いったいどこに向かっているのでしょう。

中島 ライブコマースでショッピングをしたり、オンラインの勉強会に参加したり、家でできることが盛んです。中国のSNS、ウィーチャットを見ていると、オンラインイベントのお知らせがたくさん流れてきますよ。

綿矢 家にいてノウハウなどを学ぶ時期、と考えていらっしゃるんでしょうか。

中島 中国人はみんな勉強が好きですね。新しい知識を得ることに、すごく貪欲です。講師を呼んで、オンラインやオフラインで美容の講習会とか、経営の勉強会などをやっています。
 音声で聴く学習アプリも流行していて、有名人のスピーチや名著の朗読を毎日のように聴いているという人も大勢います。コロナ禍の前もやっていましたが、コロナによって、そういうことにますますエネルギーを注いでいる印象があります。

綿矢 なるほど、面白いですね。たくさんの人が発信して、それぞれに熱心な受講者がいそうです。

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中島恵さん