ドンペンは「権限委譲」の産物だった

ドンペンの出生で注目したいのは、その考案者です。ドンペンは、ドンキ店舗にいるPOPライターが考案し、全社的に広がったものだというのです(「あのピンクのヒミツも明らかに!? 生誕から20年を経てドン・キホーテのキャラクター「ドンペン」公式サイトが誕生」)。
ドンキ店内には商品を説明する派手な手書きのPOP看板があります。各店舗にはそれぞれ専属のPOPライターがおり、それぞれの店でそのPOPを作ります。そんなPOPライターの一人がドンペンを生み出し、それが広がったのです(ちなみに私がドンキのPOPライターに取材を行った記事ではその仕事の具体的な内容が紹介されています。興味がある方はぜひ読んでください)。

日本人とペンギンの関係から見る「ドンキのペンギン」の姿_c

つまり、ドンペンは会社が意図して作ったものではなく、あるPOPライターの個人的な試みとして作られたわけです。
POPに限らず、ドンキでは各店舗の経営に関する権限が、現場の社員に大幅に与えられており、これを「権限委譲」といいます。ドンキの創業者である安田隆夫はこのシステムこそドンキの重要な戦略だというのです(『安売り王一代』)。私の本でも触れたのですが、実際にこの権限委譲こそ、ドンキの小売店のさまざまな特徴を形作っています。

日本人とペンギンの関係から見る「ドンキのペンギン」の姿_d

ドンペンとは、権限委譲の結果として生まれたキャラクターであり、特定のデザイナーや会社の上層部が生んだものではないのです。

権限委譲とペンギン好きがドンペンを生んだ

ここで私は想像してしまいます。もし、一流デザイナーや会社の上層部がマスコットキャラクターを決めていたのなら、ドンキの特徴と関係が強いキャラクターが選ばれ、考案されていたでしょう。しかし、ドンキはそのようなトップダウンの企業風土を持っていませんでした。実際には現場のPOPライターが自由に描いたイラストが会社のマスコットキャラクターになったのです。
では、なぜペンギンだったのか。日本人にとってペンギンとは身近な生き物であり、ペンギンをモチーフにしたキャラクターが多くいたからです。権限委譲によって個人が自由に描いたからこそ、ペンギンのキャラクターが描かれたのではないでしょうか。

日本人とペンギンの関係から見る「ドンキのペンギン」の姿_e

ドンキにとってペンギンとはなにか。それは、ドンキという小売店を他の小売店と決定的に異なるものにしている「権限委譲」を表す象徴なのではないでしょうか。
そう考えると、なるほど、ドンキの前に堂々と鎮座するドンペンの顔の、あの、自信に満ちた表情にも納得がいくというものです。

※本稿は、2022年3月18日に開催されたトークイベント「ドンキと国道16号線から考えるポスト郊外文化〜『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』刊行記念イベント」における柳瀬博一さんの発言から着想を得て書かれたものです。この場を借りて柳瀬さんに御礼申し上げます。

写真 / 谷頭和希

ドンキにはなぜペンギンがいるのか
谷頭和希
日本人とペンギンの関係から見る「ドンキのペンギン」の姿_f
2022年2月17日発売
924円(税込)
新書判/240ページ
ISBN:978-4-08-721204-4
【24歳の著者が挑む!日本の「いま」を切り取ったチェーンストア都市論】
私たちの生活に欠かせないチェーンストアは都市を均質にし、街の歴史を壊すとして批判を受けてきた。
だが、チェーンは本当に都市を壊したのだろうか。
1997年生まれの若き「街歩き」ライターはその疑問を明らかにすべく、32期連続増収を続けるディスカウントストア、ドン・キホーテを巡った。
そこから見えてきたのは、チェーンストアを中心にした現代日本の都市の姿と未来の可能性である。
ドンキの歴史や経営戦略を社会学や建築の視点から読み解きながら、日本の「いま」を見据える。
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