完備された後のネット技術しか知らない弊害

ネット右翼の主体はシニアであるという常識が覆されることになり、私は衝撃を受けた。むろんこういった若年世代のネット右翼は例外であり、ネット右翼の主力が依然としてシニアであることはやはり事実である。しかし例外としてもこれまで様々な調査の中で推定されてきたネット右翼の年齢層とは明らかに異なり、年齢的にはるかに下方にある黒瀬やウトロ放火事件の犯人が出現してきたことについては一考に値する教訓を残した。

この原因は、明らかに若年層においてネットリテラシーが育まれていないことである。シニア右翼と同じように、彼らは世に生を受けた瞬間からすでに高速インターネットを当たり前のように利用していた。仮に黒瀬が29歳だとしても、彼の本格的ネット利用開始は21世紀初頭以降になる。1990年代に存在したネットのカオス状態をまったく知らないまま、後発組としてネット利用を「疑うことなく」開始したのである。

黒瀬深「立憲民主党は中国のスパイです」事件…進むネトウヨの若年化。ネットの”便利さ”しか知らない世代の危険性とは_5
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自明の事として与えられた快適なネットインフラの利用により、ネット言説からの一撃が簡単に彼らを「右翼」に転向させてしまうことの脆弱性は、シニアと年齢的に対極にある若年層にも共通して存在する。完備された後のネット技術しか知らないことの弊害は、シニアの反対である若年層の一部に及んでいる。

#1「ネトウヨ変態劇! なぜ鬼畜米英を叫んだ右翼は米国の犬になったのか」はこちら

#2「ネトウヨの都合いいアメリカ観とは…」はこちら

『シニア右翼-日本の中高年はなぜ右傾化するのか 』(中公新書ラクレ)
古谷 経衡 (著)
黒瀬深「立憲民主党は中国のスパイです」事件…進むネトウヨの若年化。ネットの”便利さ”しか知らない世代の危険性とは_6
‎ 2023/3/8
¥990
新書 ‏ : ‎ 288ページ
ISBN:978-4121507907
あなたの隣にいる!
久しぶりに実家に帰ると、穏健だった親が急に政治に目覚め、YouTubeで右傾的番組の視聴者になり、保守系論壇誌の定期購読者になっていた――。こんな事例があなたの隣りで起きているかもしれない。中にはネット上でのヘイトが昂じて逮捕・裁判の事例が頻発している。そのほとんどが50歳以上の「シニア右翼」なのである。若者を導くべきシニア像は今は昔だ。これは決して一過性の社会現象ではなく、戦前・戦後史が生みだした「鬼っ子」と呼ぶべきものであることが、歴史に通暁した著者の手により明らかにされる。
そして、導火線に一気に火を付けたのは、ネット動画という一撃である。シニア層はネットへの接触歴がこれまで未熟だったことから、リテラシーがきわめて低く、デマや陰謀論に騙されやすい。そんな実態を近年のネット技術史から読み解く。 かつて右翼と「同じ釜の飯を食っていた」鬼才の著者だからこそ、内側から見た右翼の実像をまじえながら論じる。 
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