野原広子の「あえて」
――『妻が口をきいてくれません』は夫婦のお話ですが、離婚後の家族を描いたのが『今朝もあの子の夢を見た』です。
妻が娘を連れて出て行ってしまい、夫は娘に会いたくても会えない。娘との関係性はよかったはずなのにと、長年思い悩む。いわゆる“片親疎外”の問題は昨今、話題になっています。
――タイトルとカバーデザインのイメージから、いい意味で裏切られました。
優しく美しい物語が始まりそうな感じがしますよね。でもそのギャップも、野原さんの持ち味なんです。ふんわりとした優しい画風で重いテーマを掘り下げていく。
そして、主人公の男性の髪の毛をよく見ていただきたいんです。ほら、テッペンに2本アホ毛が描いてあるでしょう? これも、深刻な内容だからあえてとぼけた感じを出したかったのだそうです。髪型をゆるくすることで、深刻になりすぎないように。
――なるほど!
それほど、せつないお話です。この作品では、妻が家を出た理由が明確に描かれていないのですが、それも「あえて」なんですね。
――このテーマを野原さんが取り上げようと思われた理由はなんでしょう?
ここ数年、共同親権・単独親権について社会的に問題になっていたり、子どもに会わせてもらえない父親の話を聞いて、どうしてそういうことになっているのだろう?という疑問からご興味を持たれたそうです。
――読者の中には、著者の実体験がベースになっているのでは?と思っている人もいるかと思うのですが。
当初、野原さんの作品は「コミックエッセイ」というジャンルに分類され、一般的にコミックエッセイは著者の体験に基づくものが多いため、そう思われがちだったかもしれません。
しかし、ご本人の体験談だと誤解されないようにと、集英社の作品では「エッセイ」の部分を除きました。
――さまざまな情報から、オリジナルの物語を作りあげていらっしゃるということですか?
知人から聞いた話、ネットや新聞の情報からテーマをすくい取って作品を作りあげるそうですから、すべて架空の設定、架空の人物のフィクションです。
様々な情報や知識を練り上げて、多くの読者の方々の共感を得るリアリティを作り上げる手腕は、見事としか言いようがありません。
取材・文/工藤菊香 漫画/野原広子
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