野原広子の「あえて」

――『妻が口をきいてくれません』は夫婦のお話ですが、離婚後の家族を描いたのが『今朝もあの子の夢を見た』です。

妻が娘を連れて出て行ってしまい、夫は娘に会いたくても会えない。娘との関係性はよかったはずなのにと、長年思い悩む。いわゆる“片親疎外”の問題は昨今、話題になっています。

――タイトルとカバーデザインのイメージから、いい意味で裏切られました。

優しく美しい物語が始まりそうな感じがしますよね。でもそのギャップも、野原さんの持ち味なんです。ふんわりとした優しい画風で重いテーマを掘り下げていく。

そして、主人公の男性の髪の毛をよく見ていただきたいんです。ほら、テッペンに2本アホ毛が描いてあるでしょう? これも、深刻な内容だからあえてとぼけた感じを出したかったのだそうです。髪型をゆるくすることで、深刻になりすぎないように。

――なるほど!

それほど、せつないお話です。この作品では、妻が家を出た理由が明確に描かれていないのですが、それも「あえて」なんですね。

――このテーマを野原さんが取り上げようと思われた理由はなんでしょう?

ここ数年、共同親権・単独親権について社会的に問題になっていたり、子どもに会わせてもらえない父親の話を聞いて、どうしてそういうことになっているのだろう?という疑問からご興味を持たれたそうです。

「主人」「奥さん」という呼び方は令和でも現役、メディアで語られる夫婦と実際の夫婦の在り方にはまだまだギャップがある…大ヒット漫画『妻が口をきいてくれません』担当編集が語る野原作品のすごさ_3
『今朝もあの子の夢を見た』より
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――読者の中には、著者の実体験がベースになっているのでは?と思っている人もいるかと思うのですが。

当初、野原さんの作品は「コミックエッセイ」というジャンルに分類され、一般的にコミックエッセイは著者の体験に基づくものが多いため、そう思われがちだったかもしれません。

しかし、ご本人の体験談だと誤解されないようにと、集英社の作品では「エッセイ」の部分を除きました。

――さまざまな情報から、オリジナルの物語を作りあげていらっしゃるということですか?

知人から聞いた話、ネットや新聞の情報からテーマをすくい取って作品を作りあげるそうですから、すべて架空の設定、架空の人物のフィクションです。

様々な情報や知識を練り上げて、多くの読者の方々の共感を得るリアリティを作り上げる手腕は、見事としか言いようがありません。

後編につづく

取材・文/工藤菊香 漫画/野原広子

漫画 『妻が口をきいてくれません』3日目はこちらから
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『妻が口を聞いてくれません』
野原 広子
「主人」「奥さん」という呼び方は令和でも現役、メディアで語られる夫婦と実際の夫婦の在り方にはまだまだギャップがある…大ヒット漫画『妻が口をきいてくれません』担当編集が語る野原作品のすごさ_4
2020年11月26日発売
1,210円(税込)
A5判/168ページ
ISBN:978-4-08-788048-9
第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞!メディアで大反響、夫婦の問題を掘り下げる賛否両論の話題作!

妻はなんで怒っているのだろう……。妻、娘、息子の四人家族として、ごく平和に暮らしていると思っていた夫。

しかし、ある時から妻との会話がなくなる。3日、2週間と時は過ぎ、やがて会話のない生活は6年目に。

家事、育児は普通にこなしているし、大喧嘩した覚えもない。違うのは、必要最低限の言葉以外、妻から話しかけてこないことだけ……。

ウェブサイト「よみタイ」の大好評連載、衝撃の描き下ろし最終話を加えて待望の書籍化。
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