「主人」と「奥さん」はまだまだ現役
――『妻が口をきいてくれません』の夫婦は、ある意味とても昭和的のように思えますが。
そうですね。夫は、主婦なんだから家事をやるのが当たり前という感覚だし、妻のほうも「自分は外で働いていないし、生活費はすべて夫任せだから仕方ないよね」と根っこのところで思っている。
――今は、家事を夫婦で分担するという考え方も主流になり、読むと「古い」と感じる人もいるのでは?
私も最初はそういう懸念があったのですが、意外にもまだまだ保守派は多いですね。「うちの主人もそうです」という声も聞きますし、そもそも30代の女性でも夫を「主人」と呼ぶ妻も多いです。
――そうなんですか!
「主人」と「奥さん」という呼び方は、令和になってもまだまだ現役ですよ。家事分担にしても、たとえ共働きでも夫のほうが収入が多いと、妻が家事をやらなくてはならない雰囲気になる。メディアで表現されている夫婦と、実際の夫婦の間にはギャップがあるな、というのがレビューを読んでの素直な感想ですね。
――そもそも好きだから結婚したはずなのに〝家庭〟となると「好き」だけじゃやっていけないということでしょうか。
特に子どもができると雑務が一気に増えますし、いわゆる名も無き家事が激増する。で、どうしても女性のほうが細かいことに気づく特性があるので、「やって」という前に自分がやってしまう。
――そして「やってくれない」という不満が発生する。
そうなんです。やってほしいことを夫に言っていたとしても、たとえば「靴下は裏返しのまま洗濯機に入れないで」というようなことも50回くらい言っているうちに諦めてしまう。
『妻口(つまくち)』は、その妻の諦めの過程も非常にていねいに描かれています。すごく深い。深いことをシンプルな画や空白で伝えきってる。野原さんの天性のセンスだと思いますね。