#1 「依存症は、れっきとした病気です」ギャンブル依存症の回復プログラムとは

依存症から回復後、自らもスタッフとして
依存症者の回復支援の道へ

グレイス・ロードで支援を受けて社会復帰した人の中には、そのままグレイス・ロードの職員となる人もいる。

山梨にあるグレイス・ロード甲斐サポートセンターのセンター長を務める田村仁さんも、ギャンブル依存症に苦しみ、グレイス・ロードで回復支援を受けた経験を持つ一人だ。

早稲田大学を卒業後、上場企業に就職した田村さんは、順風満帆な人生を送っていくように思われたが、パチンコにハマり、ギャンブル依存症を発症した。サッカーなどの趣味もあったが、パチンコにどんどんのめり込んでいくにつれ、パチンコ以外の物事を楽しいと感じられなくなった。

早大卒エリートに元受刑者。元キックボクシング王者は借金50万円を3か月で1000万円に膨らませて路上生活者にまで転落…回復状態を維持するギャンブル依存症専門回復施設のスタッフたち_1
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何度か病院で診察を受けて、そのたびに依存症と診断されるも『俺のことを何も知らないくせに』と、自分では認めることができずに悪化の一途をたどる。その内、食事も摂らずにパチンコ屋に入り浸ることが増えて、費やした金額は1000万円にも膨れ上がっていった。

どうしてもパチンコをやめることができない自分に絶望し、人生最後の旅行としてタイに行き、旅先で自殺を試みたこともあったという。しかし、死ぬことができずに帰国して、グレイス・ロードで治療を開始。入所した初日は、安堵の気持ちが溢れて一晩中布団の中で涙を流した。

早大卒エリートに元受刑者。元キックボクシング王者は借金50万円を3か月で1000万円に膨らませて路上生活者にまで転落…回復状態を維持するギャンブル依存症専門回復施設のスタッフたち_2
現在は甲斐サポートセンターでセンター長を務める田村仁さん
 

入所するまでは「こんなに辛い人間は自分の他にいない」という感覚でいたが、入所してみると周りの入所者もスタッフも似たような境遇の人だらけだったことに驚いた。

「他の人に自分の気持ちなんかわかるわけがないと思っていましたが、施設では、私はごくごく普通のギャンブル依存症者でした。施設で接する人達は自分と似たような境遇の人ばかりだから、何か言われても素直に『なるほど』と受け入れることができました」(田村さん)

回復プログラムの一環として行う、ボランティア活動によって意識の変化も体験できたという。

「かつての自分はゴミを捨てる側でしたが、それが拾う側になったことで自己肯定感を感じられました。それと、一緒にゴミ拾いに参加する地域の人達が、自分達のことを依存症者だとわかったうえで、普通に接してくれるのも大きな励みになりました。ゴミ拾いの後に握手して『頑張ってね』って言葉をかけてくれる人もいて、とても有り難かったです」(田村さん)