ワルの達人たちが造る入管の密造酒

それに音を上げて自ら帰国すると言い出す者もいれば、最悪なケースとして自ら命を絶つ者もいる。入管が「外国人を閉じ込めて無理やり帰国する方向へ追いやっている」と言われる所以だ。

「フロアにいる人間は自由に交流できるので、自然と力関係が決まる。俺はあるイラン人と仲良くなって、入管の外にいるイラン人を紹介してもらった。彼は定期的に面会に来てくれて、偽造のテレフォンカードを売ってくれるんだ。3000円分のテレカを1500円とかで差し入れしてくれる。

携帯が使えない入管の中では、テレカは重要なものだ。俺はその偽造テレカを同じフロアの収容者たちに安く売ってやった。すると、周りから感謝されるだろ。あとは日本語の読み書きが完璧にできるから通訳や書類の代筆もできる。それで信頼を集めてフロアで力を持つようになっていったんだ」

30年くらい前、イラン人の偽造テレカの密売が大きな話題になった。携帯電話の普及とともに、その闇ビジネスは消え去ったかに思われたが、こうしたところで生きていたのである。
ちなみに、ペドロが入管内で会ったイランの不法滞在者は、自ら帰国する人が多かったそうだ。

彼らの大半は1980~1990年代にかけて来日し、20年以上日本で働いて金を貯め込んできた人たちだ。入管に無駄に長く閉じ込められて不自由な思いをするより、潮時だと思って帰国を選ぶ傾向にあるらしい。ペドロはつづける。

「入管にいる元受刑者はみんなワルばかりだから、あの手この手でいろんなことをしていたよ。よくやったのが酒造りだ。入管の中では酒の持ち込みが禁止されているので、食事で出される食べ物を発酵させて酒を造るんだ。俺はバナナで酒を造ったよ。造り方は、前にいた人から新しく入った人へ伝えられていく。

すごい奴だと、外にいる仲間に頼んでシャンプーやリンスの中に大麻を隠して差し入れてもらう奴もいたね。密輸をやっていた奴は、隠し方をちゃんと知っているので、入管の職員の目を盗んでできるんだ。入管内では煙草はOKだったから、臭いはするけど、うまくやれば怪しまれずに大麻を吸うことができた」