90代と50代が密室でふたりきり
「十何年もセックスはしてなくてもう勃たないから、そういうことはできないし望んでない……と言うんです。セックスがしたいんじゃなくて、お風呂に入って背中を流してもらったり、ハグしたり、手を握りながらお話したり…そういうことがしたいそうで。たぶん、恋愛している感覚をもう一度味わいたいんでしょうね」
K子さんはSさんと都内の高級ホテルにランチへ行くことになり、食後にそのまま同じホテルへとチェックイン。まだ2回しか会ったことがなかったが、お互い年齢を重ねた男女だ。そこは早すぎるということもないのだろう。問題は別のところにあった。
「場所選びはけっこう大変でした。ランチもお部屋も前もって予約ができて、なおかつデート気分を楽しめるところで、Sさんのご自宅からアクセスが悪くないところ……という条件で探しました。そういう意味では食事から部屋に向かう負担が少ないそのホテルはうってつけの場所だったと思います」
Sさんは過去に大病をしているため、手すりなどのバリアフリーの設備もある程度必要だ。年を重ねると、いろいろな部分で行動を制限される。もちろん、前情報どおり、真の意味で男女の関係になることもなかった。では、ふたりは密室でどんなことをしていたのか。
「最初はソファで向かい合って座っていたのですが、しばらくすると隣にやってきて、手を重ねてお話ししました。『こうやってあなたと2人きりで隣に座って、ゆっくり話したかった』なんて言われて。
『若い頃はスポーツをやっていたから、僕は結構筋肉があるんだよ』と言うので、太ももを触ってあげたりもしました。キャバクラみたいな感じですね」
一緒にお風呂を入ることも提案したが、浴槽の縁が高く断念。彼女は介護の資格など持っていないので、万が一に備えてのふたりの判断だった。
体は衰えに抗えない現実がある一方で、男として頼られたい気持ちはまだ残っている。