「中年の危機」は暗闇の中で光る“美しき日々”
現場で大変だったのは、プロデューサー目線と女優目線の切り替え。
「プロデューサーとしては、一段高いところから、現場全体を見なきゃいけないんです。『今日は何時に終われるかな』とか『濡れ場のシーンは大丈夫かな?』とか考えて、実際にケアしていく。
でも、自分が演じるシーンでは、グッと視野を狭めて役に入り込まなきゃいけないので、視点が全く違うんです。
なので、自分の撮影の前日は、休みをいただいて、集中したり。ふたつの視点を行ったり来たりするのが、大変でしたね」
完成した映画『零落』は、表現と向き合う漫画家の苦悩とともに、「中年の危機」を生々しくも真摯に描いた作品に。
この「ミッドライフ・クライシス」は中年の80%が経験するとも言われており、共感する人も多いだろう。
「堕ちているときって、本人は苦しいし、周りも苦しいんですけど、ダークサイドの中で輝いている美しい瞬間だったりもするのかなって、完成作を見て気づきました。
『大人の思春期』は、いいことがある前の、ちょっと大変な時期。そんなふうに私は肯定的に捉えたいと思いましたし、みなさんにもそういう受け止め方をしてもらえたら。
すばらしい映像美とともに、目指していた『大人の作品』ができ上がりました」
「大人の思春期」は、MEGUMI自身にもあったという。
「うーん、ありましたねぇ。役者の仕事がいっさいなかったときは、『こんなにがんばってるのになぁ』って。もう、めちゃくちゃ絡まっている感じがあって。10年近くそれが続いたものですから、けっこうキツかったですね」
インタビュー後編では、そんなMEGUMIが過ごした「大人の思春期」と、マルチな活躍を生む仕事術などを探る。
取材・文/泊 貴洋
撮影/柳岡創平
場面写真/©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会
『零落』(2023年)
監督/竹中直人
原作/浅野いにお『零落』(小学館 ビッグスペリオールコミックス刊)
脚本/倉持裕
音楽/志磨遼平(ドレスコーズ)
出演/斎藤工、趣里、MEGUMI、山下リオ、土佐和成、吉沢悠、玉城ティナ、安達祐実
製作幹事・配給/日活、ハピネットファントム・スタジオ
8年間の連載が終了し、描けなくなった漫画家の深澤薫。世間からは「落ち目」の烙印を押され、アシスタントからはパワハラで理不尽に訴えられそうになり、漫画編集者の妻・のぞみとは離婚の危機に陥ってしまう。そしてのめり込んだのは、猫のような目をした風俗嬢・ちふゆ。堕落への片道切符を手にした深澤が、人生の岐路に立つ。
3月17日(金)テアトル新宿ほか全国公開
公式HPはこちら https://happinet-phantom.com/reiraku/#modal