サウナ室に入る前からアウフグースは始まっている
――いいださんにとって、アウフグースのこだわりはありますか?
僕のなかでは「アウフグース=熱い風を送る」というだけでは、もはやないんですよね。客層や時間帯によってアロマの匂いを変えたり、扇ぎ方を変えたりするのは当たり前。入口と排気口の位置で空気の流れが決まるので、空調を調節してベストなコンディションに整えたりもしています。
――お話を聞いていて思ったのですが、ミュージシャンがライブをするときのような感覚なのでしょうか?
その感覚にも似ていますね。ライブが始まる前に音響さんとやりとりするように、サウナ室に入る前にアウフグースは始まっているんです。女性のお客さんもいるイベントならベリー系のアロマにしたり、サウナ初心者の方が多いイベントなら室温を下げたりします。
――アロマの調合はアンプとかをイジるような感覚ですか?
そうですね。いくらアンプがよくてもライブハウスが小さかったら、音が鳴りすぎて耳が痛くなっちゃうように、いい匂いのアロマも適量じゃないと鼻が痛くなってしまいますから。
あと、タオル選びは楽器選びに似ています。世界大会で使われるスタンダードのタオルはけっこう長いんですけど、それだとサウナ室が狭いときは扇ぎにくいので、もう少し短いタオルを使います。それから、アウフグースを始める前に「口上」をしたり、アウフグース中もお客さんに向かってトークするんですが、ライブMCの経験がめちゃくちゃ生きています(笑)。
――まさにライブパフォーマンスですね。
アウフグースはエンターテインメントだと思っています。僕のチームでは、アウフグースを「演目」と呼んでいるんです。例えば、「焼肉アウフグース」というネタでは、お客さんをお肉として扱います。座っているベンチを網に見立てて、最初はタン塩をイメージしてレモン系のアロマ、次に燻製ベーコンをイメージしてブラックペッパー系のアロマ、締めに梅茶漬けをイメージして梅のアロマやほうじ茶のアロマを使います。
ロウリュをしながら、「まだ背中が生焼けですね。裏返しましょう」と言ったり、お客さんがしんどくなってきたら、「焼けましたね。では、食べられてきてくださーい」と外に出てもらったり。いろいろセリフも工夫しているんです。
――芸が細かすぎます(笑)。
テーマパークのアトラクションみたいなノリですね。ショーアウフグースというカテゴリーになるんですけど、去年くらいから徐々に広まりだして、大会も開かれるようになってきました。だから、最近は衣装にもこだわりだしているんですよ。世界大会では大道具を使う人もいるし、プロジェクションマッピングみたいなことをしている人もいますね。
ただ、僕は昔ながらの静かな熱波も大好きなんです。だから、いろいろなアウフグースを選べるというのが大事かなと思っていて。みんながみんな、ショ―アウフグースを好きになる必要はないし、好きなようにサウナを楽しめる環境が増えてほしいというのが僕の願いです。