一生忘れない…2F56157Y
――試験当日は、自信を持って臨めた?
もう完全に開き直っていました(笑)。映画もドラマもバラエティも、現場ではいつだって本番勝負! みたいな感じがあって。そこで鍛えられた成果だと思います。むしろ集中してできたことは大きなアドバンテージになりました。
――二次試験は一次とはまるで異なり、制限時間6時間半の間に1枚の図面を描き上げる…とお聞きしましたが。
そうです。図面を描くという作業はパズルに似ていて、最初の段階で犯した小さなミスが最後になって、決定的なミスにつながってしまいます。
加えて法令に関するミス…例えば、隣の建物から5メートル以内にある建物だとすれば、火災が起こった際延焼を防ぐために、防火ガラスにする必要があるので、図面に防火ガラスを示すマークを記さないといけないんですけど、ひとつでも書き忘れるとほぼ一発でアウトになってしまいます。
――全部正解で100点という、試験とは違うものなんですね。
後で出される回答例も模範解答例じゃなく標準解答例なので、満点という解答は存在しないと思うし、その逆に100点を超える解答が、たくさんとも言えるし…。手応えは感じてもこれで大丈夫!とはなかなか思えなくて。
――発表までは半信半疑だった?
他の誰よりも先生に叱られていたので、先生に叱られたところはだけは絶対に間違えないようにしようと思いながら、先生が横で見ているつもりで描いて。実際に復元した図面を先生に見せたとき、「うんできてる」と言っていただいたので表面上は期待していませんという顔で、でも心の中ではそれなりに期待して発表を待ちました(笑)。
――合格者の中に、“田中道子”という名前を見たときは?
名前じゃなくて番号…“2F56157Y”それが私の受験番号で、見つけた瞬間全身の力が一気に抜けて解放されたような気持ちになりました。“やったー!”じゃなくて、下から嬉しさの波が静かにひたひたと押し寄せてくるような、それまで味わったことのない不思議な感覚でした。
――今もその気持ちは続いていますか?
資格を得るためには、これから2年間の実務経験を積まなければいけないですし、今はやっとこれでスタートラインに立てたという気持ちです。
――芸能活動を2年間、休まないといけない?
いいえ。いつまでにという期限はなくトータルで2年なので、仕事の合間を縫ってゆっくりと時間をかけて免許登録を目指したいと思っています。
――最後に、一級建築士・田中道子が思い描く夢の建物を教えてください。
子どもが大好きなので、学校や幼稚園、保育園、図書館や体育館など、子どもが関係する施設に興味があります。遊び心もあって、比較的自由度も高い、そういう建物を建てられたら楽しいだろうなというのがひとつ。
もうひとつは、海に浮かぶ水族館のような、幻想的で神秘的な建物にも興味があります。
1年で一発勝負で合格できたのは、間違いなく追い風だと思うので、本業を大事にしながら、一歩ずつ夢に向かって前に進んでいきたいと思います。
撮影/柏木ゆり 取材・文/工藤晋