ともに総合格闘家(MMAファイター)として活躍する中村K太郎と杉山しずか夫妻が東京・湯島にユナイテッドジム東京(UNITED GYM TOKYO)をオープンして、7月で1年が経った。
「K太郎さんは若い時からゴールドジムで『K太郎道場』をやっていたんですけど、『いつかは常設で絶対ジムを作りたい』と言っていたのを覚えていました。(私たちは)格闘技でしか生きていかないだろうし。ジムを経営する未来もきっと楽しいだろうなって前向きに捉えていました。
まわりからも『二人でジムを作るのはいいね』って応援してくれる人ばっかりだったし、『ジムを作るなら私も一緒にやりたい』みたいな感じで話していましたね」(杉山)
一方、K太郎はコロナ禍でのジムのオープンをこう振り返る。
BreakingDown、THE MATCH…盛り上がる格闘技界で、ベテラン選手が試合出場するための2つの条件
BreakingDown、THE MATCHと格闘技界が盛り上がる中で、ベテラン選手となった今も総合格闘技の第一線で試合をしている杉山しずか。その一方で、夫であり、UFC、RIZINで活躍してきた中村K太郎は、2019年末を最後に総合格闘技の試合をしていない。選手から経営者へと転身したのか、それとも…!? 夫妻を直撃した。
選手から経営者へと転身!?

朴訥な話し方でインタビューに応えるK太郎
「もともとジムをやりたい気持ちはあって、自分のジムを作るなら『選手として2人とも盛り上がってる時期に始めた方がいいんじゃない?』とも言われたりしていました。
でも、当時はUFCに参戦している時期(2015年9月~2019年4月)で競技に集中したかったので、そこまで具体的には考えず、漠然と“やりたいな”ぐらいでした。それでやっと去年、実現したみたいな感じです」(K太郎)
そうして、ジムをオープンさせて1年間、運営してきたが、この2年半の間、総合格闘家として自らの試合は1試合もしていない。
柔術ではジムオープン後の昨年9月に「全日本マスター柔術選手権」を制し黒帯昇格を果たしたK太郎だが、総合格闘技での試合は2019年末、「Bellator JAPAN」でのロレンズ・ラーキン戦以来見られていない。
ジムには「運動したい」といった素朴な動機で入会し、格闘家としての2人を知らない会員もいたが、そういった人たちからもK太郎の試合を望む声は多くなっているという。
「よく言われます(笑)。でも、だいぶ試合から離れているので、マネージャーからLINEじゃなくて電話が掛かってくると、『うわ、試合オファーの電話が来た』と思ってめちゃくちゃドキドキします(苦笑)」(K太郎)
試合に出る条件は「出たい気持ち」ともう1つ
国内で王者となり、世界最高峰のUFCでも3年半にわたり戦ってきた。キャリア・実績とも十分なベテランであり、ジムを持つ身ともなった今、おいそれと試合に応じられない状況もある。
「やっぱりキャリアを重ねて自分も強くなれば相手も強くなっていって、試合のダメージも深くなっていくので、そういう消耗している部分を考えなくはないです。キャリアの序盤はほとんど試合でダメージはなかったですけど、UFCに出て強い相手とやるとやっぱり網膜剥離や眼窩底骨折をやったりしましたから」(K太郎)
「国内でやっていた時とは心構えとか緊張感は違ったんじゃないですかね」(杉山)
K太郎は現在38歳、昨年9月の柔術黒帯昇格時には「MMAはやっぱりダメージがあって、おじさんになってもできるもんじゃないと思っています。今後はむしろ柔術に出ていきたいですね」と口にしていた。
MMA出場の条件は、「試合に出たいっていう自分の気持ちと、ファイトマネーの話ですよね。そこをこだわらなければ、試合自体は割とすぐできるんじゃないかと思います。ですけど、別にそんな妥協してまで出るものでもないし、タイミングがよければ」という。
ファイターはゲームのようにリセットボタン一つで容易に回復できるものではないし、毎回多大な危険に身をさらして戦っている。杉山もまた、妻や母としての日々を送りながらリングに上がる。
自分ができることをやる
「結婚したり、子どもができてからはスケジュール的に気を使うことが多いです。『この日に試合をしていいのか』というスケジュールの問題もありますし、毎日のやりくりが大変というのもあります。
だから『できる時にだけ試合をやる』感じになっちゃいます。
正直、パッと試合に出るなんて『そんな甘くないよ』みたいに否定的に言ってくる人もいます。だけど、まわりも協力してくれて、私のスケジュールに合わせて早い時間にプロ練をやってくれたり、みなさんの協力のおかげで今もいっぱい試合ができてるかなって思っています」(杉山)

杉山は出産を経てママさんファイターとして活躍中
協力してくれる中には夫であるK太郎も含まれており、「ジムに関してはほとんどK太郎さんがやってくれているので、試合したい時にさせてもらって、意味がある試合だけを選んでやっている感じです」と、ファイター同士の夫婦として支え合いがある。
「ジムに関して、自分でもっとやりたいとかもありますけど、たぶん格闘技とYouTubeでしかお金をもらえないので(笑)。社会的に仕事が成り立つのに辞める必要はないかなと思っています。社会貢献できて意味がある人間でいるために、格闘技もYouTubeもジムも続けていきたいです」(杉山)

明朗快活にインタビューに応える杉山
ジムは昨年クラウドファンディングで447万円の支援を受け、誕生。支援を募るページで杉山はこう記している。
「怪我をしたり辛い時期もありました、辞めたくなる時期もありました。それでも、やっぱり格闘技が大好きなんです。今でも飽きることなく、夢中で楽しめる、格闘技には不思議な魅力があります」
自身がそうであったように会員の人たちにとってもジムが「『強い絆で結ばれる場』になって欲しい」と続けている。
格闘技には「真の友情」を育む力がある
格闘技には「真の友情」を育む力があり、そんな気持ちの通じた仲間の試合はどんなハイレベルなものよりエキサイティングで面白い。杉山の言葉に、K太郎も同調する。
「仲間の試合を見ていると、負けた時は残念ですけど勝った時はすごく嬉しいし、自分の試合以上に感情移入できますね」(K太郎)
ジム会員の人たちにとって普段指導を受けるK太郎や杉山の試合はなおさらであり、きっと同じ気持ちだろう。

K太郎の次戦は…
「だいぶ試合から離れているのに、まだそういう目で見てくれているのが嬉しいですね」(K太郎)
「自分が思ってるより、まわりに自分たちのことを思ってもらっているということにちょっとビックリしたりします」(杉山)
臆することなく淡々と試合に臨んで見えるK太郎だが、実際はオファーの時からひどく緊張しているという。そんな意外な一面も見せながら、会員たちの後押しを受けて、「また試合を見れそうですね」と促すと、K太郎は「そうですね」と穏やかに笑った。
取材・文/長谷川亮 撮影/高木陽春 写真提供/RIZIN FIGHTING FEDERATION
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