囲み取材ではいつも慎重な物言いに終始する中日・立浪和義監督も、さすがに手応えを感じたのだろう。
「真っすぐが伸びていた。変化球で空振り取れるのも大きい。ボールだけ見たら十分、戦力の投手だなと思っています」
試合後、そう根尾昂を評した。
6月22日のヤクルト戦。根尾は野手から投手に登録変更して2度目の登板を果たした。そして圧巻の三者凡退。19日、巨人の岡本和真を空振り三振に打ち取った真っすぐにも伸びがあったが、この日はより一層ボールが切れているように感じられた。球速表示も前回から1キロ速い152キロ。登板するごとに良い内容になっている。
とくに目についたのは、右足のスパイクの底が天を向いていたことだ。一般的に右投手はボールをリリースする際、右足でプレート板を蹴るようにしてホーム側へ体重移動させる。そのとき蹴った右足が跳ねあがり、スパイクの底が勢い余って見えることがある。
「体重が乗って良い」とされるフォームの特徴のひとつなのだが、ヤクルト戦の根尾は、このスパイクの底がハッキリ見えるほど右足が蹴れていた。これは投手専門にやってきている選手でも、みんながみんな出来ているものではない。根尾の才能の片鱗だ。
もちろん、わずかな登板回数だけで成功が占えるほどプロの世界は甘くはない。制球力の一層の安定、投手としての投げるスタミナ。変化球など球種を増やすことと、その精度。課題は挙げたらキリがない。それでもそうした課題が可能性、伸びしろに感じられるのは、やはり根尾という選手の魅力だろう。
ただ気になることがある。それは根尾の投手転向に対する“心根”だ。根尾は、選手登録を野手から投手に変更した際、記者とのやりとりでこんなことを口にした。
「現時点で投手登録なんですけど、投手でやっていくというところを一番に思ってやるんですけど、ただ打撃練習もしますし(中略)、今ももっと打ちたいという気持ちは持っていますし……」

投手転向で球団には抗議の電話も…中日・根尾のスパイクに見た「才能の片鱗」
今シーズン、外野手としてスタートを切った中日ドラゴンズの根尾昂だったが、開幕から二か月足らずでショートに再転向。そして6月にはなんと「投手転向」が発表された。4年前に甲子園を沸かせたスター選手の異例の決断に注目が集まっている。
「ボールだけを見たら十分、戦力」
退路を断っての投手転向のはずだが…
野手として、バッターとしての未練。それは言葉の裏側に明確にあるものだった。また、立浪監督も当面は1軍で中継ぎ起用し、投げない日は代打、代走、守備固めなど野手としての起用も考えているという。
そう聞くと、一抹の不安を覚える。
甲子園の優勝投手として根尾がプロの世界に飛び込んだのは、2019年のこと。当時、投手として育てるか打者か、思案する球団に対し根尾は迷うことなく「野手一本でやりたい」と明言し、その道を踏み出した。
しかし、現実は厳しかった。中日の球団関係者が、こう言った。
「外野手としての守備力に問題はありません。むしろ上の部類でしょう。ただいかんせん、打てない。(プロの1軍レベルの)ストレートについていけない。これは致命的です」
若手打者の場合、例えば空振りばかりするが当たれば飛ばすとか、逆に大きいのはないがミートは巧いなど、どこかストロングポイントはあるものだ。しかし根尾の場合、悲しいかなそのアピールポイントが見いだせなかった。
「フリー打撃の練習でも、打席で迷いを見せる。ショートの守備でもステップや捕球態勢に安定感を欠く。立浪監督は『打撃より投手の方が大成するかなと思ってみていた』と言っていますが、内心では野手では厳しいと判断し、投手の可能性に賭けようと考えたわけです」
(前出・中日球団関係者)
つまりは退路を断っての投手転向のはず、なのだ。だが本人は、バッターとしての自分も捨てないという。なにも一本に絞らなければ大成しないなどと昭和のような言い切りはしない。とはいえ、やはり不安に思う。
球団に鳴り響いた抗議の電話
さらに前出の中日球団関係者はこう続ける。
「投手への転向については、実はファンの方々から、かなりの数の抗議の電話が来ていたんです。『球団は3年ぐらいで結論を出すな』『なぜもっとチャンスをあげないのか』とね。甲子園のスターの凄まじさというか。そうしたファンの“根尾愛の深さ”は、入団時からまったく変わっていません」
まだ4年目と思うファンと、もう4年目と考える球団との、いわばギャップ。もしかしたら、根尾という22歳の青年も、その“4年目の間”を揺らめいているのかもしれない。
とはいえ根尾の投手としての能力は、前述のように素晴らしいものがある。現状のショートリリーフならすでに中日投手陣の中に分け入るだけのボールの威力を発揮している。順調に鍛えられれば、このまま抑えに近い役割も担えるかも知れない。
スタミナがつけば先発候補か。そのためには来季を見据え、あえて2軍で身体作りからやり直すか、それとも1軍に帯同し続け、落合ヘッド兼投手コーチの助言のもと、ゆっくり、それでいて着実に結果を求めていくか。可能性は広がる。
内野手から外野手へ、そして投手へと、あたかも迷走する転向が続いた中で、ようやく輝き始めた原石は、果たしてどんなものを掴み、自らを発見するのだろうか。
写真/小池義弘
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