パパ活女子たちが“立ちんぼ”をすることでも有名な新宿区大久保公園。その目の前に位置する「日本駆け込み寺」の事務所にて、ホストにハマってしまった娘を持つ親を対象とした相談会が10月某日に行われた。
「日本駆け込み寺」は家庭問題や金銭問題といったさまざまな社会問題を抱える人の相談にのる組織。同法人に寄せられる相談内容の中でも、近年、悪徳ホストによって借金を背負わされた少女の親からの相談が増え、その状況を解決すべく、同法人は今年7月20日にホスト問題専用相談室「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称:青母連/せいぼれん)を設置した。
同法人理事の玄秀盛氏は話す。
「青母連にはすでに全国各地から50件以上の相談がきています。相談で多いのが、女子大生の娘を持つ親御さんからのもので、出来心でホストクラブに遊びに行ってしまったことから、あれよあれよと多額の売掛を背負わされたケース。そして、その売掛金を支払うために風俗勤めに陥ってしまっているというものです」
この日の相談会に訪れていた都内在住の武田さん(仮名・50代公務員女性)の24歳の長女も、大学時代にホストクラブの沼にハマってしまったひとり。
<成人年齢引き下げで10代の“ホスト被害”が増加>「彼氏の夢のために900万円の借金と中絶」売掛返済と風俗勤め…女手ひとつで育てた娘が陥った地獄のホストスパイラル
「ホス狂」(ほすきょう)とは、ホストにどっぷりとハマった女性のことをいう。ホス狂の中には悪徳ホストの口車にのり、売掛(ホストクラブのツケ制度)などによる多額の借金を抱えさせられているパターンも少なくない。アフターコロナの繁華街で、今、このホス狂が著しく増加しているという。実際にホス狂の娘を持つ親と、公益社団法人「日本駆け込み寺」創設者で理事の玄秀盛氏(67)に、令和のホスト問題について話を聞いた。
ホスト問題専用相談室が誕生

長女がホストクラブにハマり、多額の借金を背負ってしまったという武田さん(仮名)
「実家暮らしの長女が大学3年の冬に、学校から『娘さんが長らく登校していない』との連絡があったんです。話を聞いてみると、『進路の方向性を変えたいから都心の大学に転学したい』という。しかたがなく転学を許すと、今度はその転学先の学校からも『登校していない』との連絡がきました」
さすがに不審に思い、長女の部屋を探ってみると、ホストクラブの名刺を発見した。
「問い詰めると、ホストクラブに通っていることを認めました。確かに以前、恋愛に奥手でそれまで彼氏がいたそぶりを見せたことがなかった長女が『SNSを通じて出会った医学生とやりとりをしてる』と話してきたことがありました。そのときは『そういう年ごろか』とあまり気にしませんでしたが、どうやらその自称・医大生こそがホストだったようで」
出稼ぎ少女たちの間で流行する“アルフォート貯金”
おそらくこのホストにとって、武田さんの長女は羽振りのいい客のひとりだったのだろう。しかし、長女は相手ホストを彼氏だと言い張り、「いずれ結婚したいと思ってる」と言って、武田さんの忠告に耳を貸さない。さらに武田さんは驚愕の事実を知る。
「ある時、長女の手帳を盗み見ると、昼間は学校に行かずに吉原のソープランドに出勤していることがわかったんです。正直、とっさに長女のことを『気持ち悪い』と感じてしまいました」
長女は「彼に頼まれたボトルを入れて数百万円の売掛があるため風俗で働いている」と話す。なぜそんな高額なボトルを頼んだかといえば、「彼の夢を支えるため」だという。
どうやら転学もホストクラブに通いやすくするための口実だったようだ。そしてその転学した大学もほどなく退学してしまう。

長女が夢中になっていたホストとのツーショット
やがて長女は家出をし、定宿を持たずに地方の風俗店を働き歩いたり、それ以外は吉原のソープで働いたりと放浪生活を送り、お金が貯まったら“彼氏”に会いにホストクラブへと行くという生活を送ることとなる。
ちなみに、地方に出稼ぎする少女たちの間では“アルフォート貯金”というものが流行っている。お菓子の「アルフォート」のパックはちょうど1万円札が100枚入るサイズ。少女たちはこのパックにお札を入れて貯金をし、何パックか貯まるとそれを持ってホストクラブで散財するような生活を送っているという。
武田さんの長女がアルフォート貯金をしていたかはわからないが、彼女が完全に“ホス狂”と化してしまったことは紛れもない事実だろう。武田さんとともにこの問題に向き合うはずの父親は、長女が高校生のときに先立っている。
「以来、私は女手ひとつで長女と3歳下の次女を育ててきました。しかし、父親っ子だった長女は、その死とともに私との関係がギクシャクしており、私が注意しても聞く耳を持たない。次女は長女の風俗勤めが発覚したときは大学受験の真っ最中だったので、受験に支障が出ないようにと、すぐに近所のワンルームに引っ越しさせました」
妊娠と中絶をしていたことも明らかに
とっくに母娘関係は破綻していた。それでもしきりに「彼氏に会ってほしい」と言う長女。おそらくホストも必死で、母親に会えば売掛を回収できると思ったのかもしれない。そうして武田さんと長女、ホスト、そして玄氏による四者面談が、日本駆け込み寺の事務所で行われた。
「ホストは『娘さんは僕に対し900万円の売掛がある』と言います。それに対して玄さんが請求書など内訳がわかるものはないのかと聞くと、『そんなものはない』と憮然とした態度でした。
『娘と結婚する気はあるんですか?』という質問にも『自分には夢があるので、まだその時期じゃない』とかわされてしまいました」
その後も出稼ぎ生活を続けていた長女。しかし、今年の夏、「彼氏に捨てられちゃった」と武田さんのもとに泣きついてきたという。

果たしてホストはどういうつもりで長女と接していたのか
「長女は本気だったようですが、あの男は最初からいずれ捨てるつもりだったのでしょう。そもそも長女はお酒が飲めない。飲んでもいないお酒代に900万円なんて……。
それに、手帳を盗み見して風俗勤めが発覚したときに、同時にエコー写真と妊娠中絶同意書も見つけてしまいました。相手はおそらくあのホストでしょう。私の想像ですが、妊娠させて『俺たちの子どものためにもがんばろう』などと言って長女にさらに貢がせていたんじゃないかと思います。
結局、中絶させられたのに、長女は『ここまでしたのだから今さらあとには引けない』といった心理に陥って泥沼に……」
今では月に1度、売掛の返済のためだけに、そのホストに会っているという。そんな状態に陥っても、話を聞いてくれる窓口は驚くほど少ないそうだ。
「これまであらゆる民間の相談機関などに連絡しましたが、成人の売掛の取り消しはできないと突き放されたり、相談料に数百万もの費用がかかるといわれ、絶望していました。そんなときに『青母連』を知ることができて、救われた気持ちです。今後も玄さんにご協力いただき、四者面談を含め、長女を救うための行動をしていきたいです」
玄氏の目標は「売掛禁止条例」の制定
その玄氏はホスト問題の現状についてこう話す。
「私のもとに寄せられるホスト問題に関する相談で多いのは、地方出身の18、19歳の娘を持つ親御さんから。おそらく上京してきて浮かれ気分の女子大生をターゲットにする悪質なホストが一部にいるのでしょう。
以前であれば18、19歳は未成年のため、売掛金は取り消しによって支払いを免れることができた。それが2022年4月の民法改正で成人年齢が18歳に引き下げられて、それができなくなってしまいました」

公益社団法人「日本駆け込み寺」理事の玄秀盛氏(67)
そもそも売掛制度自体に、玄氏は疑問を呈す。
「ホストクラブの売掛は、クラブや料亭などのように、店と客の信頼があって成り立つ“本来の売掛”とは似て非なるもの。18歳や19歳の女の子を相手に色恋を仕掛けて、口約束でひと晩50万円や100万円の支払いをさせてしまうことが許されていいわけがない。
だから私はまだまだ判断能力が未熟な25歳以下の青少年に対しての『売掛禁止条例』を作りたい。これは私がやるべき最後の仕事だと覚悟を決めています」

吉住健一新宿区長に提出するための「売掛禁止」の署名
2000年に東京都で「ぼったくり防止条例」が、2013年に新宿区で「客引き防止条例」がすでに施行されている。「売掛禁止条例」がこれに続くことができれば、ホストクラブによって悲劇に陥る女性を減らせるかもしれない。
●相談受付
青少年を守る父母の連絡協議会 事務局
seiboren@nippon-kakekomidera.jp
取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班