〈子どもの声は“騒音”なのか?〉話題の道路族告発サイト「道路族マップ」管理人に直撃! 行政や政府の道路族への対応は? 社会学者は「子どもへのバッシングが暴走する危険性」
2016年のWebサイト開設以来、賛否を呼んできた「道路族マップ」。集英社オンライン取材班が実際に都内の現場で聞き込みをしたところ、凶悪な「道路族」が見つけられなかったことは前編でお伝えした通り。後編ではサイト運営者に直撃するとともに、「道路族」について有識者に分析してもらった。
「道路族マップ」管理人に直撃
“迷惑の基準”は人それぞれ。前編の聞き込みからは、多くの投稿者が神経質になりすぎている印象を抱く結果となったが、自らが「道路族の被害者」とするサイト運営者のように、実際にトラブルに遭遇するケースがなければ、ここまで「道路族」が注目されることもなかっただろう。
自らが発信源になるしかなかった運営者の本音とは。
取材班は、「道路族マップ」や「ご近所迷惑行為マップ」を主なコンテンツとするサイト「DQN TODAY」の管理人に対面取材を申し込むとともに、詳細な質問状を送った。しかしメールで返ってきたのは以下の文面だった。
「ご連絡ありがとうございます。DQN TODAY管理人です。大変申し訳ありませんが、連休前の月末で多忙を極めており、期限内に回答する時間を割くのが困難です。こちらの他、お聞きになりたいことの幾つかはお知らせにて掲載しておりますのでご参照ください。よろしくお願いいたします」

管理人が紹介してくれたページには本人が受けた道路族による被害や、サイト開設に至った経緯などが詳細に記されているので読者にもご参考いただきたい
しかし、それだけでは実際の地点調査にどんな対応をされているのかわからなかったため、「お忙しい中、ご返信ありがとうございます。大変失礼なお願いなのですが、一応、事実確認として、以下の2つの質問にご回答いただけないでしょうか」と追加質問を送信したところ、回答を得ることができた。次ページのやり取りがそれだ。
行政と政府の道路族対策は?
【質問事項】
Q1 これまで管理人様が道路族マップの登録があった場所に直接出向き、子どもたちの騒ぎを確認したことはありますか? 出向いたことがあるとしたらトータルで何か所ほど行かれたのでしょうか?
「10か所程度です。その他多くの地点について、事実と反するという指摘があれば削除に応じますし、事実に反するという指摘が虚偽だった場合は登録者を信用します。互いの主張は地図上で可能な限りオープンにし、対立する意見に対しては努めて中立になるように心がけています」
Q2 道路族マップ内には、隣人調査業者や防犯ステッカーなどのリンクが貼られていますが、広告収入などはあるのでしょうか? 仮にあるとするならば、どのくらいの収益をあげていますか?
「お答えは控えさせていただきますが、微々たるものです」
同サイト管理人の努力の成果か、「道路族」を問題視して注意喚起を呼びかける自治体も出てきている。
奈良県生駒市は2021年3月から公式ホームページで堂々と「『道路族』とならないようにしましょう」と掲げ、子どもたちが縄跳びや鬼ごっこをすることにまで苦言を呈している。
同市防災安全課に理由を質すとこんな答えが返ってきた。

「道路族」にならないよう注意を呼び掛ける奈良県生駒市
「道路上での遊びや子どもたちによる敷地内への不法侵入などの迷惑行為について、市民から『何とかならないですか』という問い合わせがあり、飛び出しなど子どもたちの安全も考慮して呼びかけることにしました。
報告は10件ほどで、同じ方からの報告もありましたが、件数が少ないのは報告できずにいる市民もいるのではないかという考えから、報告箇所のパトロールと注意喚起を実施しています。
迷惑行為自体は地域住民の意識やモラルの問題になるので、この掲載によってみなさんの意識が上がり、住みよい場所になってくれたらと思っています」
一方で、岸田文雄首相は4月27日に行われた政府の「こども未来戦略会議」で「子どもの声が騒音であるという声に対して、我々は改めて、考えを改めなければいけない。これこそ次元の異なる政策であると考えて、これからも政策を進めていきたい」として「子どもの声は騒音ではない」ということを法制化することを示唆した。
社会学者が語る「道路族マップ」の危険性
「道路族」という言葉や、それを見つけてマッピングして排除を呼びかけることにはどれほど本質的な価値や社会生活での必要性があるのか?
社会学者でネット右翼やSNSの炎上問題などに詳しい伊藤昌亮・成蹊大学文学部現代社会学科教授は「道路族マップ」をこう分析する。
「まず『DQN』という言葉が多用されているのが気になります。
『2ちゃんねる』で2003年に『JOY祭り』という炎上現象の走りのような大きな動きがありました。居酒屋で走り回る子どもを注意した店員に、親がキレて暴力を振るったということを、ハンドルネーム『JOY』という人物が自分のネット日記に投稿したことからブログが炎上。その後2ちゃんねるに飛び火し、その家族の個人情報を晒すなど一連の行動が『DQN狩り』と言われたことがあります。
DQNとは要するにヤンキーのことで、オタクがヤンキーの粗暴な行為に対して情報を寄せ集めて告発するという、集合知による特定と告発の行為が2ちゃんねる的な集合行動の原型にあって、これが現代までずっと続いている。
ヤンキー側の逸脱行為に対して、技術力を使ってオタクが正義の鉄拳を振るうということですね。
『道路族マップ』にしても、サイト作りとネット情報収集の技術で、ヤンキー側に見立てられる子どもに異議申し立てをしていくという構図です」

「道路族マップ」のサイト画面。首都圏を中心に多くの「道路族」に関する投稿がされている
伊藤教授は「道路族マップ」もこうした系譜にある行動と分類し、さらにこう警鐘を鳴らす。
「マップにすると一望できるので可視化された『証拠』になり、それが社会的な合意を得て子どもへのバッシングになり、権力として暴走を始める危険性もある。
実際に迷惑行為を受けたと感じた人じゃなくても、バッシングに加勢したくなる。バイトテロ騒動もそのバイト先に関係ない人たちがめちゃくちゃ怒りましたよね。
『道路族』に対しても、迷惑と感じた人がいるのは事実でも、このサイトを通じて全然関係ない人達の声まで集まると、実際の被害者が数人しか居なくても、数百人数千人の声がそこに対して投下されていく。問題提起が当事者に伝わって自制を促すくらいならいいけれど、糾弾や攻撃から制裁が働き出すと当事者は身動きが取れなくなる。
生駒市のように「道路族」にならないよう注意を呼び掛けるといった対応もわからなくはないけれども、クレームが来るのが嫌だから先まわりして強い制裁をすることにつながりかねない。問題提起として意味があるとは思うけど、現象と制裁とのバランスを考えた時に、当事者性を越えた大きな声が乗っかってしまう恐れがありますね」
「道路族の被害は実際に遭ってみた人にしかわからない」と管理人
こうした状況を踏まえて、伊藤教授は検証の必要性をこう訴える。
「検証した上で実際にどのような迷惑行為があり、どれだけの規制が求められるべきなのかを冷静に考えていく必要があるし、個別の迷惑と外から乗っかってくる正義感は分けなければならない。
日本中の人が書き込んで、普通の人たちが軽いノリで乗っかると、現象に対して過剰に厳しい社会的規範が作られる危険性がある。
『晒し』と『まとめ』は暴力的になりやすいので、迷惑行為の肩を持つ必要はないけれども、問題提起の方法として注意すべきところもあると思います。
生駒市のような呼びかけをする自治体がこの先出てくると、それが実態的な圧力となって『正義』が暴走を始め、住民が萎縮してしまいかねない」

「道路族」の投稿があった雑司ヶ谷公園
「道路族の被害は実際に遭ってみた人にしかわからない」――。
配信サイト「note」でこう世間の無理解を嘆く「DQN TODAY」の管理人は、同時にこうも綴っている。
「昔当たり前のようにそこらじゅうであった立ちションは今や絶滅種となり、至るところに落ちていたタバコの吸殻も見かけなくなり、犬の糞を放置して帰れば処罰される時代です。道路族問題も、いずれ解決されるご近所ハラスメントの一つじゃないかな、と私は感じています」
住民同士が分断されることなく、心穏やかに暮らせる社会、ご近所づきあい。決して難しそうな響きではないのだが、実現はそう簡単なことではないかもしれない。
※「集英社オンライン」では、「道路族」など近隣トラブルについて、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
メールアドレス:
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@shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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