37年前に「倍速視聴」をネタにした『こち亀』

この4月に出版した『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)が、おかげさまで大きな反響を得ている。Z世代と呼ばれる若年層に比較的多いとされる映像コンテンツの倍速視聴、スキップ視聴、ネタバレ視聴、連続ドラマの話を飛ばす、といった実態を調査・分析した内容だが、彼らが「けしからん」という話をしたかったわけではない。

定額制動画配信サービスによってあふれかえる映像コンテンツの数々、「流行りについていかなければ、同世代から遅れをとってしまう」というSNSが加速させた焦燥感、やたら時短やコスパを求める社会。そういった環境、いうなれば「現代という時代が倍速視聴を生み出した」ことを、本を通じて問題提起したかったのだ。

2021年の民間調査によれば、20〜69歳の約3割、20代の半数近くに倍速視聴の習慣がある。そればかりか、筆者がある大学で行った調査によれば、大学2〜4年生の3人に2人が倍速視聴を、4人に3人がスキップ視聴を日常的に行っていた。彼らは言う。「倍速で観れば1時間でドラマが2本観られる。コスパがいい」と。

27年前の「こち亀」が予見していた「倍速視聴」の先にある現実_1

若者を中心としたYouTubeでの倍速視聴は、その機能が実装された2017年から徐々に習慣化。一方、定額制動画配信サービスでの倍速視聴習慣は、Netflixが倍速視聴機能を実装した2019年8月以降、拡大した。特に2020年から続くコロナ禍では人々の「巣ごもり」時間が増えたため、話題の連続ドラマをいち早く「完走」すべく時短視聴する人が年齢を問わず目立ちはじめた。倍速視聴とは、ここ最近の現代人の習慣なのだ。

しかし、なんと今から37年も前に「倍速視聴」をネタにした漫画があった。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(こち亀)だ。