「『CASSHERN』の脚本は稚拙だったし、完璧ではなかった」紀里谷和明監督が振り返る、不当にジャッジされ続けてきた20年
映画『CASSHERN』(2004)でデビューした紀里谷和明監督。約20年で激変した映画を取り巻く環境や、作品を批判されることへの葛藤、そして創作への愛を聞いた。
紀里谷和明インタビュー#2
世界はすごく広大な100円ショップになった

紀里谷和明監督。新作は4月7日公開の映画『世界の終わりから』
🄫Kiriya Pictures
──監督は映画業界に対して危機感を抱いているとのことですが、劇場でかかる映画だけでなく、今は膨大な映像作品が世の中にあふれています。
作品がコンテンツという名前に取って代わられたあたりから、ものすごく変な流れになっていっちゃいましたよね。誰かが10年かけて作った映画も、誰かが寿司屋で醤油さしを舐めている映像も、同じ棚に並べられているわけです。それもただ同然の金額で。
そして再生回数が上がれば、そちらに価値があると見なされる。今は世界がものすごく広大な100円ショップのようになってしまったと思います。
──あまりに商品数が多すぎて、どれを手にとっていいかも悩みます。
全部を手にとっている時間すらないですからね。もちろん、誰かがものすごく苦労をして作り上げた商品が100円ショップの棚に並んでいるのと同じように、作り手の思いがものすごく込められている作品もある。
でも簡単に手に入るから、気に入らなければすぐに試聴をやめるし、忘れてしまうでしょう?
──タイパやコスパを求める時代でもありますからね。
つまり機械的な発想ですよね。例えばSNSでもそう。「この人と写真を一緒に撮ったらフォロワーが何人増えるかな」とか、損得勘定ですべて動いてしまっている。それって、めちゃくちゃアルゴリズム的な発想ですよね。
作品を作る側も、売れるため、ヒットするために動画は10分以内に収めなきゃダメとか、開始から◯分あたりで笑えるようにしなきゃダメとか、データに縛られてしまっている。クリエイティブでもなんでもないですよね。それなのに、この10年くらいはクリエイターと呼ばれる人が量産されたわけです。
僕はAIに関してもものすごく研究しているのですが、今はAIが作り出す作品の方が圧倒的にクリエイティブだと思います。AIは売れようとも、認められようとも思っていない。人間が自由を放棄した今、AIは自由な発想でものすごいものを作り出している。もう、人間は負けるに決まってます。
批判されて傷つかない人間はいない

『世界の終わりから』でソラを演じた冨永愛。物語のラストで描かれる彼女の行動に注目
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──そこまで思っている監督が、新作映画『世界の終わりから』を発表する意味とは?
一種の僕の遺言みたいなもの。非常に過酷な現実ではあるけれど、若い世代に対して希望を抱いてほしいとも思っているし、作品の中でも、最後には希望を描いたつもりです。
──確かに、一筋の希望を描いた温かなラストに胸がいっぱいになりました。作品を発表することは、多くの人にジャッジされることと切り離せません。そこに関しては、どんな評価を受けても動じないスタンスですか?
もう、それはすごく傷つきますよ。それでも愛が勝つから作り続けてきたけれど、人格まで否定されてきましたからね。それこそ5年、10年かけて作ってきたものを、ソファに寝そべりながら見た人に否定されるわけですから。自分の子供のような作品を「駄作だ」と全否定されて、傷つかない人間はいないと思います。
──もっと強い人だと思っていました。
僕の場合、結婚した相手が有名な方だったので、全く別の基準で批判されてしまうことが確実にありました。特に『CASSHERN』(2004)のときの不当な批判はもう、ひどかった。どう考えても色眼鏡だし、どう見ても不当なジャッジだし、なんなら映画を見ていないことが明確にわかる批判もありました。
──約20年経った今も批判があるのですか?
いまだにありますね。もちろん、『CASSHERN』は完璧な作品ではありません。初めて書いた脚本だったし、稚拙だったと思います。しかし、メチャクチャ批判したのは日本人だけで、他の国の方々からは熱烈に受け入れられました。まあ、逆の考え方をすれば、20年前の作品が今もこうやって語られることは、それくらい印象に残ったということでしょう。
ハリウッドでモーガン・フリーマンと一緒に仕事をした作品であっても(『ラスト・ナイツ』)、配給してもらえなかったのは日本だけです。だから自分で配給しました。もうこの国では、フラットに作品を見てもらえないという意識はありますね。
映画の公開後は何も決まっていない
──映画の公開後は、どうされるんですか?
Facebookのアカウントはとっくの昔に消しているし、インスタはやっていない。今やっているTwitterもLINEも、映画のアフターケアが終わったら、ある程度でやめちゃうと思います。Twitterのアカウントは消さないでくれという声が多かったので残すけど、発信することからは身を引く予定です。
──どこで何をする予定ですか?
全く決まっていません。僕は今まで写真もやったし音楽もやったしミュージックビデオも手がけてきたけど、映画監督というものの過酷さと苦しみは、他で味わったことがありません。
映画作りから距離を置くことを発表するときは葛藤がありましたが、ものすごく気が楽になったのも確かなんです。
──創作を恋人と表現されていましたが、ヨリを戻す可能性は?
可能性はあります。ここまで言っておきながらも、実際揺れ動いていることは確か。だってやっぱり愛してるし。
『世界の終わりから』(2023) 上映時間:2時間15分/日本

高校生のハナ(伊東蒼)は、事故で親を亡くし、学校でも居場所を見つけられず、生きる希望を見出せずにいた。ある日突然訪れた政府の特別機関と名乗る男(毎熊克哉)から自分の見た夢を教えてほしいと頼まれる。心当たりがなく混乱するハナだったが、その夜奇妙な夢を見る……。
4月7日(金)より全国公開
配給:ナカチカ
公式サイト:https://sekainoowarikara-movie.jp/#
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取材・文/松山梢
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