#1
#2

横田さん夫妻と孫娘の対面案「第三国で」

横田滋さんと早紀江さん夫妻が第三国で孫のウンギョンさんと面会する。その案が実現に向けて動き出した。主導したのは外務省だった。

横田滋さん、早紀江さん夫妻はウンギョンさんとの対面を希望しているのかどうか。外務省がその真意を確認したのは2013年夏だった。ウンギョンさんに「お母さんは亡くなった」と言わせる北朝鮮の宣伝工作にのってはいけない。こうした支援団体などからの忠告を受け入れ、早紀江さんはこれまで面会に慎重な姿勢であったが、外務省幹部からの提案に前向きな意思を伝えた。

外務省は横田夫妻の意向確認を終えると、斎木昭隆事務次官が安倍氏に対し、第三国での面会に向けて北朝鮮側と水面下の交渉を始めたいと提案した。「もしうまくいけば、拉致問題の解決に向けた本格交渉の再開にもつながる」と進言した。安倍首相は「うん、わかった。それで進めてくれ」とゴーサインを出した。

「ミスターX」の暗躍で実現した、拉致被害者・横田めぐみさん両親とめぐみさんの娘・ウンギョンさん対面の舞台裏…「モンゴルかスイスか中国か、面会は“第三国”で…」_1
横田夫妻 写真/Getty Images
すべての画像を見る

斎木氏は2023年9月のインタビューで、安倍氏との当時のやりとりなどを明かしているので、その一部を紹介したい。

《当時、ウンギョンさんに娘が生まれたという情報が入ってきた。第三国での面会を当時の安倍晋三首相に相談したところ、『これは実現させましょう』と強い意向を示された。北朝鮮側は 『モンゴルならいい』と言ってきた。総理に報告すると、『(モンゴルの)エルベグドルジ大統領に頼んでみる』と言われた。大統領は二つ返事で『日朝関係の役に立ちたいと思っていた。(モンゴルの)迎賓館があるから、好きなだけ使ってほしい』と快く引き受けてくれた》

外務省が通常、国交のない北朝鮮側とやりとりする際は、中国・北京の大使館ルートを通じて行う。北朝鮮による核実験や弾道ミサイル発射に対する抗議は、この連絡方法を使っている。両国の外務省間による公式ルートだ。だが、北朝鮮外務省は独裁国家の政府組織のなかで、その地位はけっして高くない。日本政府は、トップの金正恩氏に日本側の意向が正確に伝わる保証はないとみている。このため、水面下で交渉を進める際には極秘ルートを使う。この時は、北朝鮮の秘密警察・国家安全保衛部とのパイプがあった。