「先生のいうことを聞く」「友達と仲良くする」が一番重要な公教育では、特別な才能は育ちにくい。日本人の「自己家畜化」を後押しする問題だらけの教育環境
小学生がまず求められる素養は、「先生のいうことを聞く」「友達と仲良くする」ことである。だがそれは日本人の家畜化を後押しし続けている大きな弊害だという。日本の公教育の根本的な問題について解説する。
自己家畜化する日本人 #4
自己家畜化に貢献する日本の公教育
こうした人間が増えた責任のかなりの部分は、日本の公教育にある。
小学校に入って真っ先に教えられることは、「先生のいうことを聞く」「友達と仲良くする」といったたぐいのことだ。まずは上と横に注意を向け、社会のルールやマナーを学んでいくことが日本の公教育の最重要な方針だ。
そうした土台をがっちりと固めたあとで、中学受験、高校受験、大学受験と次々とノルマを課していくのだから、「自分は何をやりたいのか」「自分はどんなことをしていると楽しいのか」といった自分の生き方を思索する時間的余裕はない。
常に与えられたレールの上を走ること、正解がある問いを最短の時間で解くことが最も重要だと思うようになるのも当然だ。

そういう子どもが、正解があらかじめ与えられていない社会に出ると、「この先、自分は一体なにをやったらいいんだろう」と思い悩む大人になる。
やりたい夢があるから起業する、レールから外れることもいとわない、と主体的に、自らの道を選べる人は昔より増えてきているかもしれないが、全体から見るとまだまだ少数派だろう。
日本の学校はギフテッドには息苦しい
また、日本の学校教育とギフテッド(高い知能や創造性、特異な才能を持つ優秀な子ども)との相性は端的にいって最悪である。
日本の教育システムは大多数の生徒に合わせたカリキュラムを提供することを重視しているため、枠からはみ出たギフテッドの子どもたちが自分のペースで学び、個々の能力を最大限に発揮することが可能なようにはできていない。

いくら才能にあふれていても、適切な指導や支援が受けられないのであれば宝の持ち腐れだ。表面的には「一人ひとりの個性を育もう」と謳っていても、現実の教室のなかでは「先生のいうことを聞いて周囲の空気を読む」ことを強いられるのだから、ギフテッドの子どもたちは退屈や挫折感を抱え、学業に対するモチベーションを失ってしまう。
それが引き金となって、成績が低下して劣等生になってしまうこともあるだろう。
すでに多くの教育者はこの問題に気づいているはずだが、教育システムの抜本的な改革を阻む文部科学省という壁が彼らの前に立ちふさがっている。
才能は学校内では阻害されるが、外では歓迎される矛盾
ところが、学校という枠組みから一歩外に出てしまえば、ずば抜けた能力を持つ子どもたちは一躍脚光を浴びる存在になる。スポーツや将棋、囲碁の世界では、定期的に天才が現れてはマスコミでもてはやされる。
その領域であればどれだけ伸びても、周囲の大人にたしなめられたり怒られたりすることがないからだ。
これらの入り口は多くの場合、習いごとなどのプライベートな出会いがきっかけとなるため、熱中できる子はリミットを解除してとことん打ち込めるだろう。凸凹をなるべく削ってならし、従順で管理しやすい子どもを「いい子」扱いする学校教育とは根本から異なっているのである。

人間の個性は8歳前後までにほぼ決まるといわれているが、それを考えるとやはり日本の教育制度は再考の余地があるだろう。
「自分で頭や体を動かすよりも、大人にいわれたことをやっているほうが楽」という思考が、小学校に入れば深いところにまでインストールされてしまうからだ。
少なくとも、現行の教育制度が強固に残っている限りは、日本人の自己家畜化の促進は避けられそうもない。
文/池田清彦
写真/shutterstock
『自己家畜化する日本人』
池田 清彦

2023/10/2
¥1,012
208ページ
978-4396116880
「ホンマでっか!?TV」出演の生物学者による痛快批評!!
家畜化の先に待つ阿鼻叫喚の未来
一部のオオカミが、進んで人間とともに暮らすことで食性や形質、性格を変化させ、温和で従順なイヌへと進化してきた過程を自己家畜化という。そして、この自己家畜化という進化の道を、動物だけでなく人間も歩んでいる。
本書は自己家畜化をキーワードに、現代日本で進む危機的な状況に警鐘を鳴らす。生物学や人類学、心理学の知見を駆使して社会を見ることで、世界でも例を見ない速度で凋落する日本人の精神状態が明らかになる。
南海トラフ大地震といった自然災害の脅威が迫り、生成AI、ゲノム編集技術といった新しいテクノロジーが急速に普及する今、日本人に待ち受ける未来とは――。
第1章 「自己家畜化」の進化史
「自己家畜化」とはなにか/ウシやブタは人間によって家畜化された/狩猟採集民が肉をあえて食べ残していた理由/人類のゴミに目をつけたオオカミ/イヌと人類のWin-Winな関係 ほか
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