〔〕内は集英社オンラインの補注です

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さまざまな病気とAIMのかかわり

有賀さん〔有賀貞一さん 一般社団法人SaveCatsFoundation代表理事〕から貴重な示唆をいただく一方、私は免疫学という専門性と決別し、できるかぎり多くの病気とAIMのかかわりを調べ始めた。

テキサス時代の最後に〔著者の宮崎徹は東京大に戻る前、テキサス大学に在籍していた〕、AIMと動脈硬化の関連性が明らかになったとき、「もしかしたらAIMは免疫に関連しているのではなく、脂質・代謝系の病気と関係があるのではないか」と考えた。そこで日本に戻った後、AIMと肥満の関係を調べることにした。

抗肥満作用も備えたタンパク質「AIM」の画期的な働きとは−−体内の不要なゴミを取り除くことで病気にアプローチ…腎不全に肝臓癌、そして肥満がなくなる日_1
ニコルくん
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まず、遺伝子改変でAIMを持たないノックアウトマウスに高脂肪の餌を食べさせると、AIMを持っている通常のマウスに比べ異常に太ることがわかった。

そして、「そのマウスにAIMを注射すると肥満は抑えられる」ということが実験から明らかになった。つまりAIMは抗肥満作用を持つことを実証できたのだ。

ただ、「なぜAIMが抗肥満作用をもたらすのか」、その理由は謎だった。それまでわかっていたのは、「マクロファージを長生きさせる」というはたらきだけで、それを援用してAIMが肥満を抑制するメカニズムを説明することはできない。

「ほかに何かAIMのはたらきがあるはずだ」と思い、その後1年ほど悪戦苦闘したが、やはりわからなかった。

2008年の冬、研究室にいた黒川淳君という学生が、AIMとは別の研究テーマで「脂肪細胞」を培養していた。

脂肪細胞とは私たちがおなかの中などに持っている脂肪組織(いわゆる脂身)を形作る細胞のことだ。この脂肪細胞の一個一個がたくさんの脂肪を溜め込んで膨れ上がり、脂身が大きくなって私たちは「太る」ことになる。

黒川君の手もとには、膨れ上がった脂肪細胞があったので、彼に「AIMを脂肪細胞に振りかけてみて」と頼んだ。

といっても、何か考えがあったわけではなく、そこに脂肪細胞がたまたまあったからそのように頼んだにすぎない。実際、このことはすぐに忘れてしまっていたのだが、3日ほどたつと黒川君がやってきて「先生、あの細胞の培養液がすごくドロドロになっています」と報告した。

そこで見にいってみると、普通はサラサラの培養液が濁って、ドロドロのゲルのようになっている。細胞が何かの菌に感染した場合、こんな状態になることはあるが、どうも違うようだった。

そのとき、「そうか、AIMが細胞に溜まった脂肪を分解し、それが細胞の外に出てきているのだ!」とひらめいた。だから、「ノックアウトマウスにAIMを注射すると、脂肪が溶けて痩せるのだ」と、これまでのデータが頭の中で一気に結びついた。

抗肥満作用も備えたタンパク質「AIM」の画期的な働きとは−−体内の不要なゴミを取り除くことで病気にアプローチ…腎不全に肝臓癌、そして肥満がなくなる日_2

その仮説を証明するために行うべき実験も、一瞬で頭の中に浮かんできた。とても興奮した瞬間であった。