〔〕内は集英社オンラインの補注です

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腎不全末期のネコに驚きの効果

セミナーで小林先生と初めてお話をしてからほどなくして〔宮崎徹氏が一般向けにAIMのことについて話したセミナーで出会った獣医師〕、日本獣医生命科学大学の新井敏郎教授をご紹介いただいた。

新井先生は、動物の糖尿病の研究を専門とされていたが、AIMとネコの腎臓病の関連については大きな興味を持ってくださり、いろいろと一緒に実験をすることになった。

私の研究室には杉澤君という獣医学を修めた学生はいたが、医学部でネコの研究をするには、難しいことがたくさんあった。新井先生には、ネコの血液や腎臓の組織切片などをご提供いただいただけでなく、ネコの腎臓病のことや獣医学的な知識をたくさん教えていただいた。

杉澤君が筆頭著者となった『サイエンティフィック・リポーツ』の論文は、新井先生にも共著者になっていただいている。

この論文は、ネコAIMの遺伝子の単離・解析や、AIMをネコ型に変えたネコ化マウスの作製などの成果をまとめたが、その研究を進める過程で、新井先生から、「とにかく一度、腎不全のネコにAIMを投与してみませんか」という提案があった。

もちろんこれは治験などではなく、あくまで学術的な投与実験で、ネコのオーナーさんに十分な説明をしたうえで許可をいただいて行うものである。

私たちはこれまで、動物実験はすべてマウスで行っていたので、手もとにはマウスのAIMはたくさんあった。また、新井先生とともにネコのAIMの研究に参加してくださっていた北里大学獣医学部の岩井聡美先生が、急性腎障害を発症したネコにマウスのAIMを投与すると腎障害が軽減することも実証ずみで、ネコにマウスのAIMが効くことはわかっていた。

しかし、それまで自然に慢性腎臓病を発症したネコにAIMを投与したことは一度もなかった。

小林先生と新井先生が腎臓病を患うネコを探してくださった。

そのネコがキジトラのキジちゃんである。

余命2週間、腎不全末期だった猫が1年以上も延命。驚きの効果を発揮したタンパク質「AIM」が猫に初めて投与された日_1
キジちゃん
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AIMの投与量は1日2㎎としたが、これはネコの血液中に存在するAIMの総量が1〜3㎎であることから決めた。ネコの血液中にあるAIMはIgMに固着したまま離れないが、これが人間のようにIgMから分離したらどのような効果が現れるのか、この投与によって確認することができる。

その結果、1回目のAIMの注射の後からどんどん状態がよくなり、5回目を打ち終わると元気に歩き回り、自分で食事もとるようになった。腎不全の末期だったキジちゃんにここまで劇的な効果が出たことは信じられなかったが、岡田先生が送ってくれた動画ではたしかに動き回っていた。