異例の告発から2か月…渦中の防衛大学校・等松春夫教授が「決意の声明文」を公開。「防大の未来を見据え、互いに忌憚のない意見を出し合うために…」
はじまりは1つのWEB記事だった。防衛大学校の等松春夫教授による告発論考の発表、それに伴うインタビュー……これらを受けて、防大に関わる人々や有識者を交えてさまざまな意見が飛び交ったが、当の防大が本格的に改革に向けて歩みだそうとしている。等松教授が改めて寄稿する。
防衛大学校、改革へ
告発に対しての学校長所感への思い
さる6月30日に、論考『危機に瀕する防衛大学校』を公表してから、約2か月が過ぎました。
その間、最初に私のインタビューを掲載した集英社オンラインでは『防衛大論考――私はこう読んだ』と題した続報が打たれ、大木毅氏(現代史家)や石原俊氏(明治学院大学教授)、石破茂氏(元防衛大臣)など、アカデミアや政界の有識者が私の主張に対する見解を発表して下さいました。各氏に感謝します。また、なにより心強かったのは、私の論考を補足してくれた現役教官の言葉でした。そして、任官辞退者たち、退校者たちの声には胸が痛むばかりでした。

防衛大学校の等松教授 撮影/高木陽春
この度、集英社オンラインに寄稿する理由は「さらなる告発のため」ではありません。これからしばらくの間、私は「組織の内側からの改善」に専念することを決めたため、それに至った経緯をご報告する必要があると考えました。
私が論考を公開してから約2週間後の7月14日に、防大の学校長である久保文明氏が、防大の公式サイト「本校教官の意見発表に対する防衛大学校長所感」(以下『学校長所感』)を公開しました。そこでは、等松論考は「大筋で的外れでないか」と結論付けられています。
しかしながら私は、公表された『学校長所感』への反論は控えました。たとえ方向性が異なる部分があるにしても、久保氏が学校長として、これまでの経緯から問題山積の、防大の改革に乗り出していること自体は事実だからです。
そのようなしだいで、先月、以下のような問題意識で―――メディアを通じてではなく―――防大執行部【1】に改善案を提案しました。
首脳部のかたがたと膝を突き合わせて議論する
・ 学内の諸問題を改善するため、教官や指導教官などから広く情報を求め、意見交換・情報共有の場を設ける必要がある。
・ 自衛官教官と文官教官の情報共有・意思疎通が十分ではないため、両者の協力関係を促進する必要がある(実際の提言には具体的計画を記しましたが、これから学内で討議されるため、現時点では詳細を割愛します)【2】。
・ 全学教授会には教授以上の教官のみが出席しており、若手教官の問題意識が反映されていないので、その出席を認めるべきである。

防衛大学校の入校式 写真:Stanislav Kogiku/アフロ
この提言書を出してほどなく、防大首脳部と複数回の会談が設定されました。このプロセスにおいて、私が事実を誤認していたことが明らかになった場合には、速やかに認識を改めるつもりです。同時に、学校側として検討・改善を要する事項を細かく説明し、改善措置を求めます。
私は、どちらか一方が完全に正しく、また一方がおしなべて誤っている、などという事態は、現実の組織運営においては有り得ないと考えますので、首脳部のかたがたと膝を突き合わせて議論する場に、誠意を尽くして臨む覚悟です。
これから連続して行われる会談において、互いに忌憚のない意見を出し合い、防大の教育研究環境を改善するための具体的な施策を検討していきます。
最後に、学生諸君に申し上げます。等松は防大首脳部と連続して会談を行いますが、現在も、将来も首脳部の一角を占めることはありません。私の研究室の扉はいつでも開いています。日本の安全保障を担う自衛隊の、文字通りの根幹となる諸君と共に、一層の研鑽に努める決意を新たにしています。

防衛大学校の久保文明学校長 写真:Stanislav Kogikuアフロ
【1】防大には学校長の下に管理(事務官)、教務(教官)、自衛官(陸将)という3名の副校長がおり、この4名が執行部を構成している。
【2】自衛隊と日本社会が健全な関係を持つために、自衛官と文民・市民が教養を共有することの重要性を筆者は次の拙稿で論じた。等松春夫「なぜ自衛隊に『商業右翼』が浸透したか―軍人と文民の教養の共有」『世界』(2023年9月号)。同様に、防大の健全な運営には自衛官と文官の教養の共有が不可欠である。
文/等松春夫
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#1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件
#2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育
【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】
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#2 大木毅:「自衛隊が抱える病い」
#3 現役教官:「学生を変質させるカリキュラム」
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#2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」
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【防大生たちの叫び】
#1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄”
#2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件…
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