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ピンチに発動してきた日本の免疫力

テレビに出演すると、日本の政治についてコメントを求められる機会がたびたびあります。

正直なところ政治については門外漢ですし、日本の政治家の頑張りが足りないなどと偉そうに語るつもりもありません。ただ、昔と今で政治家の質が大きく変わっているのは感じています。

決定的な違いは、腹の括り方にあります。

明治から戦前の時代までは、現代と比べて暗殺事件の発生件数も多く、政治家にはいつ死んでもおかしくないという緊張感がありました。緊張感を抱きつつ、たとえ非難をされようが、国民を生かすためにすべきことをやり抜いていました。

大久保利通は、初代の内務卿(現代でいうと総理大臣)でしたが、公共事業に私費を投じ、多額の借金を作っていたという逸話があります。しかも、債権者たちは大久保の借金の使い道を知っていたので、死後は遺族に対して返済を求めなかったといいます。

今も国民のために仕事をしている人がいるとは思いますが、戦後から大きく政治のあり方が変わり、政治とカネのような問題が頻出するようになったのは事実でしょう。

「すでにお金持ちでありながら、これ以上お金を増やすことと、歴史に名を残すことのなら、どうして後者を選ばないのか」直木賞作家今村翔吾が現代の政治家に思うこと_1
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私が現役の政治家にぶつけたいのは、「それ以上お金を得てどうするつもりなのか」という疑問です。今の政治家は、国民の平均所得と比較すれば多額の給与にあたる歳費以外に、月100万円も支給される「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)などの経費も支給されています。しかも、民間ではあたり前の「領収書」は不要ですし、「残金の返却も不要」というルールになっています。

すでにお金持ちでありながら、これ以上お金を増やすことと歴史に名を残すことのどちらを目指しているのか、どうして後者に興味を持たないのかと思うのです。

今後、本当に明治の元勲と同じくらいの覚悟で政治に取り組む人が出てきたら、日本の政治は大きく変わっていくはずです。それを期待する反面、もはや無理なのではと冷静に捉えている自分もいます。

ただ、一つだけ希望があるとすれば、これまで日本がピンチに陥ったときには、救世主となる人材がいきなり登場してきたということです。

日本を一体の生き物だとすれば、これまで本当に生存本能が脅かされたときには、特別な免疫機能を発揮して病巣や傷を治療して回復させるような現象が何度となく起きているのです。

そういう特別な免疫力が日本に残っていたら、という希望は持っています。今の日本に免疫力が働いているようには見えませんが、もしかすると日本はまだ本気で追い詰められていないのかもしれません。