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過剰なくらいに安全運転だから、スピードが出せない

リーマンショック以降、日本企業の賃金が上がらない「本当の理由」とその「打開策」_1
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内閣府の「世界経済の潮流」(2022年)によると、日本は生産性の変動に対して、賃金が連動しにくい国だという。

労働生産性と賃金の伸び率の間の相関係数を求めて、OECD加盟国のうち35か国で比較したものだ。日本は35か国中で、26位と低い順位だ。相関係数は、0.049とほぼ無相関である。これは、日本の賃金が、生産性と連動していないことを示している。

生産性の高まっている米国は、相関係数が0.674と日本よりも遥かに高い。近年、日本の賃金を抜いてきたイスラエルや韓国、東欧諸国はいずれも日本より相関係数が高い。つまり、日本の賃金は変化に対して上方硬直的だから、成長する国々に次々と抜かれるのだ。この内閣府のデータは、私たちの心をくじくに足る内容だ。

なぜ、日本の賃金がこれほど硬直的なのかを考えると、「安定重視があだになった」という見方ができる。日本企業は不況になっても、雇用を守り、所定内給与もそれほど下げない。その代わりに、好況に転じても、すぐには賃金を上げない。リスク回避型で賃金を支払っていることが、硬直性の原因になっている。

この傾向は、経営者の慎重姿勢とも符合する。過去20年間を振り返ると、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、コロナ禍(2020年)と、数年に一度のペースで、大きな経済ショックに見舞われている。企業はそのたびに雇用を守り、所定内給与を下げ渋ってきた。

その代償として、危機から数年を経なければ、名目賃金を上げようとしない。しかし、名目賃金を上げ始めると、すぐに次の危機が起こって賃上げがストップする。この循環が繰り返されてきたのだろう。

こうした傾向は、日銀の金融政策にもそっくり当てはまる。慎重すぎて超低金利の是正がいつまで経ってもできないでいる。過剰なくらいに安全運転だから、スピードが出せない。安定志向があだになっている。