【漫画あり】「お母さん大好き!」前科8犯で覚せい剤まみれの母親の写真を飾っている子供の悲壮な叫び。なぜ美人キャバ嬢はドラッグに手を出したのか…薬物依存とセックスの切っても切れない関係
日本で初めて説得による精神障害者の移送サービスを行う「トキワ精神保健事務所」を始めた押川剛氏。その押川氏が原作を手がけ、社会の闇をリアルに描いた問題作、漫画『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社)に込められた思いとは…。(全6回の6回目)
子供を殺してくださいという親たち#6
薬物依存症者の特徴は「舌をペロペロ…」
――最新コミックス13巻に収録されている【ケース20 「いい子」の仮面の犯罪者】では、薬物問題がテーマになっています。これまで見てこられた患者さんに、薬物依存の方は多いのでしょうか。
少なくはないです。ただ、依頼者である親がそれをわかっていません。真面目な家庭の子供の場合、親や兄弟は統合失調症や双極性障害だと思うんですよね。私たちが「いやいや、これ絶対に薬物ですよ」と言っても「バカにしないでください!うちの子はそんなことしません」ときっぱり言ってきますから。
それで調査をしてその証拠を突きつけたら、そういう家庭の場合は依頼お断りとなって不成立です。ただ不成立でも私は「110番はするよ」と言うので、そこで揉めまくるんですよ。でも、悲しいかな、やっぱり警察を入れないと医療に繋がるってことはないですね。

――薬物乱用の幻覚妄想と、統合失調症の症状は似ていると聞きましたが、区別はつくものなのでしょうか?
よっぽどのベテラン精神科医でなければ、見分けはつかないですね。精神科医にも、わかる人と分からない人がいる。それが実情です。
薬物依存症の患者って、嘘をつくのがめちゃくちゃうまいんですよ。警察に捕まらないように、バレないようにする能力が本能としてどんどん高まっていきます。だから、薬物依存症は、本人がゲロするか、証拠が出てこない限りわかりません。そして、証拠が出たときには逮捕となる事案ですから、そんなところまで見ている精神科医はまずいないでしょう。
――押川さんは、どのようなところから薬物の疑いを判断しているのですか?
薬物依存症の人は喉が渇くという特徴があるから、舌をよくペロペロするんです。だから、職質するお巡りさんも、マスクをしていたコロナ禍はわかりづらかったみたいですね。
それと、やっぱり感情の起伏がすごく大きい。精神疾患って、陽性症状が強いと寝ないんですが、覚せい剤も使用すると寝ずに済みます。そして、薬が切れたときに身体の疲れが広がって、ずっとグダ〜っと寝てしまうんです。
薬物問題はセックスの話でもある
――【「いい子」の仮面の犯罪者】に出てくる沙織は、どちらかというと淡々としていて、テンションの高いところは描かれてなかった気がします。
あれは、要するにセックスの話なんですよ。覚せい剤はセックスドラッグなので、彼女は薬物の供給先でもある交際相手とひたすらセックスしてるわけです。ものすごい数の大人のおもちゃが転がっているような描写があったと思いますが、セックスそのもののシーンはないですよね。実は、プロットの段階ではもっとストレートでしたが、編集の岩坂さんや漫画家の鈴木(マサカズ)先生が他のケースとのバランスを考えながらネームを切ってくれました。本当にいい制作チームでやれているなと思います。
で、話は戻りますが、結局この(薬物)問題というのは、セックスが絡んでくるんです。
漫画に出てくる沙織も、セックス込みで相手の男にしっかり仕上げられていましたね。例えば覚せい剤の使用方法について尋ねると、「彼氏が買ってきたほか弁食べて、“1本いっとく?”ってシャブ打って、セックスしてから、(夜の)仕事に行ってましたね~」と淡々と説明するんです。これこそがリアルな現実です。

そして、いま私が懸念しているのは、性にまつわる問題やトラブルがさらに複雑化していること。LGBTQ+が取り沙汰され、いままでは男×女で区切れたものが、男×男、女×女、男も女も全部、と下半身の問題が多様化しています。
ただでさえ性の問題は介入する側にも高い技術が求められるのに、今後はますます多角的な視野で物事を見た上で、解決していかなければなりません。多様性を受け入れることは世界的な流れであり、みんな簡単に「受け入れます」と言っているけど、果たして対応できるだけの仕組みや制度、何よりも人間の知能がついていっているのか? と思うと、不安になります。
この問題は、世界的にちゃんと知恵を出し合って考えていかなければいけないことだと思います。
――薬物問題といえば、押川さんは2005年に『セックス依存症だった私』(新潮社)で、元DJのK子さんのエピソードを1冊にまとめています。
K子もとんでもない奴でしたけど、いまは大手企業でマネージャ職をしていて、すごい業績を上げてますよ。
――完全に社会復帰しているんですね。この本には、K子さんと電気グルーヴの交流についても記されていて、2019年にピエール瀧氏がコカイン所持で逮捕された際にも注目を集めました。
もう絶版になっていたので、メルカリで破格の値段がついてました(笑)。写真もたくさんありましたし、K子の証言を元に徹底的な調査をして、当時、静岡県警にチャート(相関図)まで作って、持っていったんですよ。そうしたら「警視庁の方でお願いします!」って、県警がビビっちゃったんです。
前科8犯の覚せい剤まみれの親の写真を飾っている子供
――それからどうなったんですか?
だから警視庁に持っていったんだけど、「まだ大したことないレベルだから扱わない」と言われて。私たちがすっかり忘れたころに逮捕されました。逮捕当時、私はメディアの取材も受けましたが、それはK子に会わせろという連絡がたくさんきたからなんです。彼女はもうカタギだから、守らなきゃいけない。あのときにちゃんとパクってたら、こんなことにはなってないだろと思いましたよ。
かつてのK子は、その界隈では本名も知られてるくらい超有名人なんです。みんな口を揃えて「ぶっ飛んでたよね」と言っていました。薬物に関して行くとこまで行ったような奴は、いざ足を洗ったときに別の社会での頑張るエネルギーがすごいなと思いましたね。

――しかし、そこまで行き切った人が、更生できるものなんですか。
何度もスリップ(薬物の再使用)してますよ。ちょっと孤独になったり、あるいは夜のネオンを見ただけでもフラッシュバックしますからね。だから、5日間くらい消息不明になったときは、大体スリップしているな、と。
で、ちょうど尿から薬物が出てこないくらいの時期にひょこっと出てくるんです。私は口癖のように「今から所轄行ってしょんべん出すぞ」とK子に言い続けて、その積み重ねでようやく本当にやめられました。ただK子はあくまでも例外で、依存症は病気なので、精神科の専門治療を受けないと難しいと思います。

――薬物事犯は、何度も逮捕されている人が多いですよね。
やめられないんですよね。私はいま北九州で児童養護施設の運営に関わっていますが、シャブを食いまくってるお母さんに限って子供をポンポン産むわけです。実は11月から、児童養護施設を舞台にした『それでも、親を愛する子供たち』という漫画をくらげバンチでスタートさせるんですが、その取材にいくと覚せい剤で前科8犯という親の子供もいるんですよ。子供は真実を教えてもらっていないから、部屋に写真を飾って「お母さん、大好き!」って。

その母親に必要な場所は刑務所ではなく、精神科病院での治療ですよ。でも、それを本人が望んでいない。何よりも可哀想なのは子供です。これも専門家は言いませんが、シャブを食ってるお母さんからは、機能的な障害を持った子が生まれくることもあります。頭が変形していたりするんです。新しい漫画では、そういった児童養護施設の現実を伝えていきたいと思っています。
児童養護施設を舞台にしたフィクション作品の嘘
――『それでも、親を愛する子供たち』も、『「子供を殺してください」という親たち』と同じ制作チームなのでしょうか?
同じように原作を私が書いて、鈴木(マサカズ)先生はネーム原作。作画を鈴木先生のアシスタントの方が担当してくれます。児童養護施設を舞台にしたフィクション作品は割とありますが、もう嘘ばっかりなんですよね。
例えば、児童養護施設にいる子供たちには親の性行為を早くから見ていて、自分たちも本当に性の目覚めに早いんです。施設の職員も性教育はしますが、やるときは大人の目を盗んででも行為に走りますから、止められません。だから職員の方々は「どうやって止めるかよりも、(赤ちゃんが)できた時にどうするかを考えている」と言っていました。児童相談所からも、そのように指導を受けているそうです。
そんな現実があるなんて、誰も表立って言いませんよね。

漫画で母親に欲情する息子のケースも描かれている
――これまた、すごい話ですね……
それを覆させるには、いまの時代、漫画しかないんですよ。日本はさまざまな問題において、課題先進国です。例えば、他国の児童養護施設は親がいない子供達が基本ですが、日本は被虐待児童のほか、貧困家庭、親が刑務所に入っている、あるいは親が精神疾患という家庭の子供も多く受け入れています。それ自体はいいことだけど、諸外国の方はその入所理由を知って、「親がいるのに?」とびっくりします。
でもいずれは、諸外国も日本のような状況になると思うんです。日本をモデルとして、学んでいくのではないでしょうか。だからこそ日本は課題先進国として、真実を明らかにして議論を重ねていく必要があると考えています。
4月に発足した子ども家庭庁もそうですが、そもそも親のやっていることがでたらめなのに、それを美化してアピールしているだけ。この問題をちゃんと表に出さない限りは、社会では議論にはなりません。そういう意味では、やっぱり漫画という手法がいまは一番優れているんじゃないかと思います。
12巻【「いい子」の仮面の犯罪者】小末田沙織のケース
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取材・文/森野広明
『「子供を殺してください」という親たち』12巻(新潮社)
原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ

2022年11月9日
726円
192ページ
978-4107725431
押川剛率いる(株)トキワ精神保健事務所は、病識のない統合失調症やアルコールや薬物の依存症、精神疾患の疑いのある長期ひきこもりなどの対象者を説得し、医療につなげている。前巻に続いて、親を使役しようとした息子の話では、引きこもりの原因を解明し自立の道へ――。そして押川の転機になった歌舞伎町のエピソードも収録!
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